心疾患は死因の上位を占めており、新しい治療として幹細胞由来の心筋を使用する再生医療や創薬応用が期待されている。幹細胞から心筋を誘導する方法は、複数のサイトカインや化合物を用いるが、高コスト、工程が煩雑、分化メカニズムも不明などの課題がある。そこで我々は幹細胞が心筋細胞へと分化する過程で出現する、自己複製能と多分化能を有する心臓前駆細胞に着目し、新規心臓前駆細胞誘導因子を用いて幹細胞からの簡便・効率的・低コストな全く新しい心筋誘導法を確立すすことを目標に研究を開始した。 まずはマウス線維芽細胞を用いて同定した心臓前駆細胞誘導因子Tbx6のマウスの心臓発生過程における発現パターンを明らかにし、さらにこの因子のみでマウスES細胞から心臓前駆細胞を誘導することに成功した。誘導効率はiPS細胞から心筋細胞を誘導する従来法と同等であった。ヒトの心臓発生ににおけるTbx6の関りを調べるため、マウス同様に心臓発生過程における発現パターンを解析したところマウスと同じような単峰性の発現パターンを示すことが分かった。ドキシサイクリン投与でTbx6の発現を制御できるヒトiPS細胞株を樹立し、適切な時期にのみ発現させることで心臓前駆細胞の誘導に成功した。得られた心臓前駆細胞は心筋細胞まで分化し、心筋遺伝子や心筋タンパク質の発現のみならず拍動することも確認した。また、複数のヒトiPS細胞株においてTbx6発現により心臓前駆細胞・心筋細胞を誘導することに成功している。
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