研究課題/領域番号 |
17K16025
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
黒川 早矢香 日本大学, 医学部, 助教 (60439130)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | セマフォリン3A |
研究実績の概要 |
本研究ではイソプロテレノール(ISP)負荷不全心筋モデルマウスに胎生蛋白制御因子セマフォリン3A(Sema3A)を投与することで、不整脈や心不全の抑制を図るという方法論を検証し、心筋の電気的・構造的・機能的リモデリングに対する根本的で新たな治療概念を確立することを目的としている。 これまでにISP負荷モデルに投与する適切なセマフォリン3A(Sema3A)の量を検討した上で、control群・ISP負荷群(不全心筋モデル)・ISP+Sema3A群(不全心筋治療群)の3群で電気生理学検査ならびに心エコー図を施行し、Sema3Aでの治療効果を検証した。電気生理学検査ではISP群で延長した単相性活動電位持続時間20%回復時間(MAPD20)がISP+Sema3A群で改善した。心エコー図ではISP群で低下した左室内径短縮率(%FS)がISP+Sema3A群で回復することを証明した。よって、ISP負荷不全心筋モデルにおいて、Sema3Aが不全心筋に対して電気的・機能的なリバースリモデリング効果を発揮することが示唆された。また、心筋イオンチャネル関連因子やカルシウムハンドリング関連因子についてmRNAの発現を定量的リアルタイムRT-PCRを用いて評価した。一部のカリウムチャネル関連因子およびカルシウムハンドリング関連因子においてISP負荷群での発現低下とISP+Sema3A群での回復が示唆され、電気的・機能的変化を裏付ける機序として妥当であると考えられた。 mRNA発現の変化が示唆された項目につきWestern blotにより蛋白発現を確認することとし、現在解析中である。組織学的評価では心筋での交感神経の分布はISP群で増加し、ISP+Sema3A群で抑制されることが確認された。 今後、学会発表や論文発表にて結果を公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画に従い、今年度はmRNA発現で変化のみられた心筋イオンチャネル関連因子やカルシウムハンドリング関連因子についてWestern blotによる蛋白発現の評価を行った。いくつかの項目では当初使用することを予定していた抗体では目的バンドの検出が不十分であった。使用する抗体・試薬・機器を変更して条件検討を繰り返したり、プロトコールの変更を行ったりしため、計画よりも時間を要した。 また、組織学的な評価ではチロシンハイドロキシラーゼの分布が比較的少量であった。切片の部位による誤差を減らし、可能な限り広範囲の組織標本で定量を行うよう定量方法を改め、計画よりも時間を要した。一方、マッソントリクローム染色での線維化の定量は、手持ちの定量ソフトでの一回に測定可能な定量範囲の限界を容易に超えてしまうため、定量に時間を要している。 また、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う緊急事態宣言の期間中に実験室が閉鎖され使用できなかったことが、実験計画全体を遅らせる原因となった。 一方、現在までに得られた結果をもとに学会発表(Heart Rhythm 2021)のための抄録を投稿し、来年度に向けて研究成果を発表する準備を既に開始している。来年度に学会発表、論文作成を行うことで遅れを取り戻すことは可能な見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に確認できたmRNA発現の結果をもとに、今年度はカリウムチャネル関連因子、カルシウムハンドリング関連因子についてのWestern blotでの蛋白発現の評価を行った。現在Western blotでの評価を継続中であり、当初使用を計画していた抗体・試薬ではバンドの検出が不十分であった項目について再度条件検討を行い、今後も評価を継続していく。また、組織学的評価については標本の作成は完了したが、定量評価で一部完了できなかった項目を今後も継続して定量していく予定である。 研究成果については来年度に学会発表等での公表を予定しており、既に結果を得られた部分については発表用の図表の作成などを既に開始している。さらに、学会での意見交換をもとに研究結果の全体を再度整理した上で、今後論文発表を行う計画である。 来年度の研究延長申請が受理されており、今年度に完了できなかった項目は来年度に持ち越して引き続ぎ研究を推進していく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の実験はWestern blotを主体に行ったが、当初使用を予定していた抗体・試薬・機器ではバンドの検出が不良であったものがあり、それらを変更して条件検討を繰り返したため使用額に変更が生じた。また、緊急事態宣言発出期間中に実験室が閉鎖された影響で、実験を予定通りに遂行できなかったことも使用額に変更が生じる原因となった。 研究の延長申請が承認されているため、今年度に完了できなかった実験は来年度に持ち越して継続し、さらに学会発表や論文発表を行う計画である。したがって今年度に使用しなかった予算は、来年度に持ち越した実験および研究発表により使用する計画である。
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