本研究では、原発性肺高血圧症に対する肺動脈周囲自律神経へのカテーテルアブレーションが有効であるという先行研究を踏まえ、肺動脈周囲自律神経への高頻度電気刺激が、不整脈および血行動態にどのような変化をもたらすのかを探索した。 まず初年度は、電気生理学的に安全に高頻度電気刺激が可能な領域を探索した。その結果、肺動脈弁より2cmほど遠位の高さから先の肺動脈内においては、心室を捕捉しない事が確認された。さらに、左右肺動脈遠位(リング状カテーテルが挿入可能である太さの限界)では、症例においては洞徐脈や、左房を捕捉する事による心房性期外収縮が生じ、また左肺動脈遠位では左横隔神経捕捉も時折見られた。一方で、肺動脈内部にピッグテールカテーテルを留置する事で肺動脈圧のモニタリングも行ったが、高頻度電気刺激中に肺動脈圧が変化する反応は見られなかった。またこれらの反応は症例により異なり、また再現性は得にくいものであった。次年度においては、心房細動に対する肺静脈隔離を行った症例で、かつ肺動脈から左房電位の確認が必要であった5例(孤発性心房細動4例、ブルガダ症候群1例)において、肺動脈内部からの高頻度電気刺激を行い、肺動脈圧の変化および不整脈誘発性の評価を行った。しかしいずれの症例でも肺動脈圧の明らかな変化は見られなかった他、心室性不整脈の誘発も不能であった。孤発性心房細動の1例で右肺動脈下方への高頻度電気刺激により再現性をもって洞徐脈が得られたが、これは左房天蓋部に存在する自律神経叢への刺激によるものと推測され、従来の知見に沿った結果であった。 このように本研究では肺動脈内部からの高頻度電気刺激は安全に実施可能である事は明らかとなったが、一方で明らかな肺動脈圧の変化は見られず、またブルガダ症候群における心室性不整脈の誘発も不能であった。
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