研究課題
平成29年度はヒトでの重症PAH に類似する病変を来す動物モデルとして、Sugen /Hypoxia(SuHx)ラットモデルの作成と解析を行った。SuHxモデルの右心機能計測にはPV-loop解析に加えMRIによる解析を加え、モデル作成後5週、8週での顕著な右心特異的な機能低下が右心室駆出率の低下、右心室拡張時間の延長から明らかになった。また、SPring-8での右冠動脈造影により、SuHxラットではアセチルコリンや一酸化窒素依存性の血管拡張応答が顕著に減弱することが明らかとなった。以上のことから、SuHxラット重症肺高血圧モデルにおいて、右心機能低下時に右冠動脈の血管拡張機能低下が生じることが明らかとなった。また、SuHxモデルの経時的な肺血管リモデリングについての検討により、先行研究(Abe et al. Circulation,121(25):2747-54, 2010)と同様に、モデル作成の5週後では血管の内膜病変が顕著に生じ、8週後では叢状病変に良く似た血管病変が出現することを確認した。この血管病変の形成に炎症細胞が関与していることを明らかにするため、まず始めにモデル作成8週後の肺における炎症細胞動態の検討をFACSにより行ったが、SuHxモデルで特異的に増加する細胞を見出すことはできなかったため、より詳細なリンパ球分画の検討を継続して行っている。また、炎症シグナルの一つであるIL-6が肺高血圧病態形成に関与するかを明らかにするため、CRISPR/Cas9 の系でIL-6KOラットを作成した。作成したラットに対しLPSを腹腔内投与し、4時間後に採血および肺組織を採取した。ELISAによる血中IL-6濃度の検討および肺組織のStat3のリン酸化の検討をWestern Blottingにより行い、IL-6の欠損を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
重症肺高血圧症モデルであるSuHxの作成が継続的にできるような設備が完成し、遺伝子発現の定量のための組織の回収などは問題なく進んだ。また、本年度から検討予定であるIL-6KOラットの作成も順調に進行し、IL-6が欠損した個体を作成することができた。さらに、肺高血圧症の治療薬として承認されている新規エンドセリン受容体拮抗薬のマシテンタンをアクテリオンファーマシューティカルズより供与していただき、本年度から治療モデルでの検討をおこなう準備が整っている。炎症細胞動態の検討をFACSにより行っているが、市販のラット抗体がマウスに比べると少ないこともあり、判別可能な細胞種が限られてしまうが、肺のリンパ球を回収して遺伝子発現解析を行うことで、ある程度は大体できると考えている。
本年度は1)PAH病態と内皮機能連関におけるET-1受容体拮抗薬(ERA)の効果の検討、および2)炎症性シグナル阻害とERAによるPAH治療の相乗効果に対する検討をおこなう。前年度での解析をもとに、エンドセリン受容体拮抗薬のマシテンタンをSuHxモデル作成の5週後および8週後に投与することによる治療モデルをWTラットおよびIL-6KOラットで作成する。作成したモデルに対し、A)心エコーや心臓カテーテル検査での心機能に関する生理学的解析、B)SPring-8における放射光微小血管造影法による肺および右冠動脈のin vivo血管機能評価、C)肺および心臓における炎症関連遺伝子・タンパク質の発現解析、D)気管支肺胞洗浄で回収したマクロファージの解析(FACS、qRT-PCR解析)、E)肺および心臓の右心室および左心室からMACSにて抗CD31抗体にて精製回収した内皮細胞における血管内皮機能関連因子の発現解析、についての検討を行う。SPring-8での実験は課題応募制であるため、採択されなかった場合では、冠循環の評価をレーザー血流計の埋め込みによる血流動態計測やバリウム造影法による血管構造の評価、および摘出心から回収した内皮細胞の機能評価などを代替として行う。
国際学会における参加および発表はしなかったため、若干のずれが生じてしまった。本年度は、FACS用抗体、ELISAキットおよび細胞分離試薬をさらに整備して、実験を進める予定である。そのため、消耗品などの物品費として120万円程度を見込み、学会発表を国内で2件予定しており、SPring-8での実験に掛かる旅費とあわせて20万円程度を予定している。また、論文投稿に掛かる経費などをその他の経費として20万円程度予定している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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