上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性肺癌は、「アジア系人種、女性、非喫煙者」に多く、その発癌機構として遺伝学的背景が示唆されている。その遺伝学的機序を明らかにすることを目的として、EGFR遺伝子変異陽性肺癌が集積している3家系の患者8人、家系内未発症者2人および健常者2人の計12人に対して、末梢血DNAを用いてエクソーム解析を行った。1サンプルあたり約2万3千個のSNVsが検出され、その内でdbSNPや1000Genomesなど既知のゲノム変異データベースに存在しない新規の遺伝子変異が4319個、さらにアミノ酸の変換を伴う遺伝子変異が1997個同定された。また、家系内健常者では見られない遺伝子変異が148個同定された。 その中で、チロシンキナーゼ受容体の一つであるMETに新規遺伝子異常(N375K)があることに着目した。この遺伝子変異は、リガンドであるHGFとの結合部の一つであるSEMAドメインに位置している。METの細胞外ドメインをFcとのキメラ蛋白として発現させ、遺伝子変異を導入したMET-N375K、MET-N375S蛋白を精製してELISA法にて検討したところ、同部位の遺伝子変異によりHGFとの親和性が低下することが確認された。 最終年度は、METが発現していないH1299細胞株にレトロウィルスベクターを用いて遺伝子導入し、MET-WTならびにMET-N375K安定発現細胞株を作製した。MTS assayやwound healing assay、創傷治癒assayを行い、MET-WTで認められた増殖能、コロニー形成能や細胞の運動/遊走能がMET-N375Kでは減弱しており、同遺伝子変異がMETとHGFとの親和性を低下させることで、loss of functionの遺伝子変異として機能することが明らかとなった。
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