研究課題
本研究計画では、以下3つの課題を助成期間中に達成することを目標としている。1)作成済みのIL-17発現Kras変異肺癌マウスモデルを用いて、各種治療により好中球減少を介して、腫瘍環境にT細胞の浸潤が回復する機序を解析する、2)腫瘍関連好中球で特に発現が上昇しているArginase1が腫瘍環境中の浸潤T細胞に与える影響を評価する、3)抗PD-1抗体治療奏功例と非奏功例の患者からの治療前後の末梢血細胞を解析し、好中球による影響を評価する。1)に関しては、IL-17高発現による好中球遊走が抗PD-1抗体への感受性に抑制的に影響することを示し、実際に肺癌患者の血清および手術検体を用いた解析においてもトランスジェニックマウスと類似の表現系を認めることを見出し、Journal of Thoracic Oncology 2017 Aug;12(8):1268-1279. doi: 10.1016/j.jtho.2017.04.017. に報告した。2)については、1)において認めた活性化好中球によるTリンパ球の抑制に関わる因子としてArginase1に着目し、その抑制作用を確認している。現在阻害薬を用いたT細胞機能の改善効果などについて共同研究者であるAkbay研究員と検討中である。3)に関しては、大阪大学医学部附属病院呼吸器内科と国立病院機構刀根山病院呼吸器科にて、抗PD-1抗体治療を受けた患者から主に新鮮血を回収し、前向きに免疫学的プロファイルを行う観察研究をすでに開始し、現在80名程度の患者を治療が長期に維持できた症例と比較的早期に次治療へ変更を余儀なくされた症例に分けて検討を進めている。末梢血中の好中球は治療効果に有意に影響していることが現在のデータから認められており、好中球とTリンパ球の相互作用について詳細を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
上記に示した3つの課題に関して、1)については論文として成果を報告することが出来た(Journal of Thoracic Oncology 2017;12(8):1268-1279.)。2)3)については、現在トランスジェニックモデルマウスおよび臨床検体を用いた解析により検討中であるが、初年度の計画では主に1)の結果をまとめ、報告することが目標であったため、進捗状況としては順調に進んでいる。
上記に示した通り、初年度の研究計画であったIL-17Krasモデルを用いた解析により、好中球の活性化・遊走とTリンパ球の抑制の相互作用を証明することができ、かつ臨床検体を用いた解析においても共通する表現系を確認することができた。次年度の目標は、この相互作用、つまり好中球によるTリンパ球の抑制性機序についてArginase1およびその他の因子に焦点を当てて、引き続きトランスジェニックマウスおよび肺癌患者検体を用いて解析を進めて行く。報告書記載時、すでにマウスモデル及び患者の好中球およびTリンパ球をペアでソーティングし、Tリンパ球の抑制性因子のスクリーニングを行っている。また、好中球の除去による腫瘍免疫環境の変化のモニターや、抗PD-1抗体に対する治療感受性・耐性化への影響という観点から、検討を開始している。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Journal of Thoracic Oncology
巻: 12 ページ: 1268~1279
10.1016/j.jtho.2017.04.017