研究課題/領域番号 |
17K16046
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
荻野 広和 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 助教 (20745294)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 線維細胞 / 免疫療法 |
研究実績の概要 |
これまでの検討で線維細胞が腫瘍組織内おいて腫瘍進展や薬剤耐性に寄与し、またこの細胞はprogrammed cell death-ligand 1 (PD-L1)を高発現することから腫瘍免疫にも影響を及ぼす可能性が示唆されていた。平成29年度は①ヒト線維細胞における各免疫チェックポイント分子の発現プロファイルおよびその機能解析、②マウス線維細胞における各免疫チェックポイント分子の発現プロファイル解析、および③マウス肺癌/中皮腫細胞株を同系統のimmuno-competentなマウスへ移植するsyngeneicなマウスモデルを作成について検討を進めた。 まずヒト末梢血より分離した単核球を20%ウシ胎児血清を添加した培地を用いてフィブロネクチンコートディッシュ上で培養し付着細胞を分離する方法で単離した線維細胞は、共抑制分子であるPD-L1以外に、共刺激分子であるCD54、CD86を高発現することが分かった。また線維細胞をヒト末梢血由来CD8陽性T細胞と共培養したところ、T細胞の増殖が著しく亢進し、この効果は特にCD54を阻害することで抑制された。またC57BL/6マウス肺組織を単細胞化したのちフィブロネクチンコートディッシュで培養しCD45陽性細胞のみを抽出することで単離した線維細胞においても、PD-L1, CD54, CD86の発現が認められた。またC57BL/6マウス由来の肺癌細胞株である3LL、およびBALB/c由来中皮腫細胞株であるAB1-HAを同系統マウス皮下に移植することで肺癌/中皮腫マウスモデルを確立した。 これらの結果は線維細胞が腫瘍組織内において細胞障害性T細胞の活性を亢進し抗腫瘍免疫を増強させる可能性が示唆された。今後allogenicあるいはautologousの系を用いて、線維細胞の腫瘍免疫に及ぼす影響に関する詳細な分子機構について解析を進める方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、線維細胞が発現する免疫チェックポイント分子の機能を解析することで、腫瘍免疫における線維細胞の役割を明らかにし、免疫チェックポイント阻害薬の薬効に及ぼす影響やバイオマーカーとなり得る可能性について検討することを目的とした。その結果、線維細胞はヒト、マウスいずれにおいても共抑制分子であるPD-L1の他、共刺激分子であるCD54, CD86を高発現し、CD8陽性T細胞と共培養することでその増殖能を著しく亢進し、抗腫瘍免疫を活性化させる可能性があることが示唆された。今後そのメカニズムに関して詳細に検討し、また線維細胞が発現する免疫チェックポイント分子が治療標的となり得る可能性についてマウスモデルを用いて検討する予定としている。 当初の予定は概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、線維細胞が抗腫瘍免疫応答、特にT細胞活性を亢進するメカニズムについて、allogenicおよびautologousの系を用いて、詳細に検討する予定としている。また線維細胞が発現するPD-L1の意義についても更なる検討を行う予定としている。その他、今回確立したマウスモデルを用い、腫瘍細胞と線維細胞を共移植することで、抗マウスPD-1/PD-l1抗体治療に対する抗腫瘍効果の変化について解析し、その他、ヒト肺癌組織中の線維細胞数と免疫チェックポイント阻害薬に対する薬効の関連について検討することとしている。これらの検討により、線維細胞の抗腫瘍免疫に及ぼす影響、免疫チェックポイント阻害薬での治療課程において線維細胞が与える影響、および薬効のバイオマーカーとなり得る可能性についての解明が可能と考える。
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