研究課題
本研究では、重症インフルエンザウイルス感染におけるADAM10の保護的役割を、動物モデル及び臨床検体を用いて検討し、その機序を明らかにすることを目的とした。研究実施計画書に記載した通り、まずは重症インフルエンザウイルス感染モデルマウスを作成し、予備実験で得られた結果の再現性を確認した。その結果、やはりAdam10コンディショナルノックアウトマウス(Adam10 cKOマウス)において、インフルエンザウイルス感染後の予後が悪くなる結果を、繰り返し再現性を持って得られた。さらにAdam10 cKOマウスでは、気管支肺胞洗浄液で炎症性サイトカイン濃度が上昇しており、肺内のインフルエンザウイルス力価が上昇していた。これらの結果から、骨髄球系細胞のADAM10がインフルエンザウイルス感染において保護的役割を有していることを、明らかにした。次に、Adam10 cKOマウスの感染後肺内で有意に増加していたCD11b陽性F4/80陽性細胞に注目し、更なる解析を行った。細胞内の各種mRNA発現をreal-time PCRにて評価したところ、Adam10 cKOマウスではArg1の発現が著明に亢進していた。さらに、Adam10 cKOマウスの生存率が、arginase選択的阻害剤の投与によって改善することを確認した。このことから、上記の保護的役割の一部は、骨髄球系細胞におけるArg1発現抑制を介している可能性が示唆された。本研究により、インフルエンザウイルス感染の病態に、骨髄球系細胞のADAM10がArg1発現を介して関与している可能性が明らかとなった。致死的疾患である重症インフルエンザウイルス感染症の新規治療戦略の切り口となる、重要な結果である。
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