これまで研究代表者は、悪性中皮腫細胞株において、恒常的にオートファジーが活性化し、そのことが、細胞の増殖、生存に関与していることを見出している。今年度は、昨年度に見出したオートファジーを調節する蛋白質Aについて、さらに詳しく分子機序を解析した。2種類の悪性中皮腫細胞株(MSTO-211H、ACC-MESO-4)に蛋白質Aに対するsiRNAを導入し、蛋白質Aの発現を抑制すると、いずれの細胞株においてもcleaved caspase-3が増加(caspase-3が活性化)し、アポトーシスが誘導されていることが示唆された。また、細胞増殖のシグナル分子であるERKやAKTについて調べると、MSTO-211Hでは蛋白質Aの発現を抑制したときにERKが活性化(リン酸化蛋白質の増加)し、ACC-MESO-4では蛋白質Aの発現を抑制してもERKの活性化に変化はなかった。しかし、ACC-MESO-4では、細胞内に元々リン酸化ERK蛋白質量が多く、恒常的にERKが活性化しているため、変化しなかった可能性がある。また、AKTについては、いずれの細胞株においても変化はなかった。これらのことから、悪性中皮腫細胞株の種類ごとに、蛋白質Aがオートファジーを調節する機序や細胞の増殖や生存を調節する機序が異なる可能性があると考えられた。研究の目的は、悪性中皮腫細胞におけるオートファジー活性化の機序、悪性中皮腫細胞におけるオートファジーの機能や役割を解明することであったが、悪性中皮腫においてオートファジーを調節する蛋白質Aを見出し、分子機序の一端を解明することができたため、目的はおおむね達成できたと考えている。
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