本研究は、日本人集団の肺MAC症疾患感受性遺伝子を網羅的に探索し、肺MAC症の病態機構を明らかにすることを目的とした。日本人肺MAC症患者のケース・コントロール関連解析およびDigiTag2法による再現解析から、肺MAC症に有意に関連する一塩基多型(SNP)の存在が証明された。 本年度は、ヒトII型肺胞上皮細胞株A549において、検出されたSNPが位置するA遺伝子をshRNAによりノックダウンした細胞株(A549-AKD)を作成した。A遺伝子の発現量は、A549細胞株では1/5程度に抑制されていることを確認した。A549-AKDに進行性肺MAC症患者より単離されたMycobacterium (M.) avium subsp. hominissuis TH135 株を感染させた(MOI=200)。A549-AKDでは、野生型株(A549-WT)と比べて、感染後3日で細胞内菌数に3~5倍の増加がみられたが、感染後1日での細胞内菌数に差はみられなかった。この結果から、A遺伝子の発現は細胞内におけるTH135の増殖に関与していることが示唆された。続いて、A549-AKDにTH135を感染させ(MOI=200)、5時間経過した時点の遺伝子発現プロファイルをRNAseq法により取得した。興味深いことに、A549-WTにおいてケモカインをコードする遺伝子が多数発現上昇していたのに対して、A549-AKDではそれらの遺伝子の発現上昇はみられなかった。これらの結果から、 A549-AKDではMAC感染時の炎症応答が遅延または減弱しており、A遺伝子がTH135感染時における炎症応答に関与している可能性が考えられた。
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