研究課題/領域番号 |
17K16071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 元信 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40459524)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | V-ATPase / mTORC / mTORC1 / mTORC2 / NHE3 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、インスリン(Ins)の近位尿細管(PT)におけるV-ATPase活性化のシグナル伝達経路の解明を行った。具体的には、マウスよりPT S2セグメントを単離し、その新鮮単離PTを用いて、生理的濃度(1nM)のIns刺激によるPI3K/Aktを介したPT管腔側 V-ATPase活性化を確認した。管腔側酸分泌輸送機構の評価は、申請者らが開発し報告したopen-split法を用いた。まず、mTORC1特異的阻害剤であるRapamycinを用いて検討を行った。RapamycinはInsによるV-ATPase活性亢進作用を抑制しなかった。次に、mTORC1/2阻害剤であるPP242による検討を行った。PP242は、InsによるV-ATPase活性亢進作用をほぼ完全に抑制した。このことから、InsによるV-ATPase活性亢進作用がmTORC2を介していることが示唆された。 次に、Insによる管腔側Na依存性酸分泌輸送機構について検討を行った。PT管腔側に発現しているNa/H交換輸送体(NHE)3はInsより活性亢進することを確認した。InsによるNHE3活性亢進作用はRapamycinでは抑制されず、PP242によりほぼ完全に抑制された。次に、Akt阻害剤を用いた検討を行った。AKt阻害剤VIIIによりInsによるV-ATPase活性亢進作用はほぼ完全に抑制され、NHE3活性亢進も同様にほぼ完全に抑制された。 以上のことから、InsによるPT管腔側Na依存性および非依存性酸分泌輸送機構は、mTORC2/Aktを介していることが示された。 次に、PT糖新生について検討を行った。PTの糖新生関連mRNA(PEPCK、G6Pase)は、マウス、ラットおよびヒトPTにおいて、cAMPで5-10倍に発現が亢進し、Insの添加によりほぼ完全に抑制された。si-RNA anti-Akt2およびsi-RNA anti-Raptor、si-RNA anti-Rictorにより特異的遺伝子抑制を行ったラットPTにおいて、Insによる糖新生関連遺伝子抑制効果が完全に抑制された。このことから、InsによるPT糖新生はAkt2、mTORC1およびmTORC2が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
InsによるV-ATPase活性亢進作用とNHE3活性亢進作用がmTORC2を介していることが示唆され、近位尿細管におけるInsによる管腔側酸輸送機構がmTORC2経路を介していることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度にはインスリン抵抗性モデルマウスを使用し、同様の検討を行う。つぎに、管腔側における主要なNa輸送体と考えられているNa/H交換輸送体NHE3のtrafickingを指標として評価を行う。
管腔側輸送体調節機構におけるV-ATPase活性化の特異的役割については、基底側NBCe1活性に対するインスリン作用の変化を指標に確認する。 次に、抗NHE3抗体を用いた免疫染色を行い、コンフォーカル顕微鏡(Leica TCS SP5)を用いてまずインスリンのPI3Kを介したNHE3 trafficking亢進作用を確認する。 次に阻害剤またはsiRNAを用いて、このインスリン作用におけるV-ATPase活性化の意義について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
施設の動物実験環境整備のため、動物実験関連の物品費の支出が予定より少なかった。また、学会発表費用も学会奨励金が授与されたため、予定より支出が少なかった。 次年度において動物実験が増える予定であり、学会発表および論文投稿関連に使用する見込みである。
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