研究実績の概要 |
Ⅰ型コラーゲンはα1(I)鎖とα2(I)鎖から構成され,それぞれCol1a1, Col1a2遺伝子から産生される.申請者等は,ポドサイト傷害誘発モデルマウス(NEP25)に再現性よくびまん性糸球体硬化を発症させる条件を見出し,糸球体硬化発症に伴うRNA発現変化を解析した.その結果,Col1a1 mRNAは増加したが,意外にもCol1a2 mRNAは著減していた.しかし,質量分析で精密に測定した結果,蛋白レベルではα1(I)鎖と同様にα2(I)鎖も増加していた.したがって,糸球体硬化におけるコラーゲン蓄積には,転写レベルではなく蛋白合成制御が重要であることが示唆された.その機序の糸口を見つけるべく,質量分析による網羅的な検討を行った.正常マウスと糸球体硬化症マウス(各n=3)よりそれぞれ糸球体を採取の後,質量分析を施行し解析したところ,硬化糸球体では D-3-phosphoglycerate dehydrogenase(PHGDH)が著増していることが判明した. PHGDHは解糖系の中間体である3-phosphoglycerateからserineが合成される経路における律速酵素である.コラーゲンを構成するアミノ酸の1/3はglycineであり,このglycineは主にserineから合成される.この硬化糸球体ではポドサイトはほぼ死滅しているが,より早期の硬化前の傷害ポドサイトのRNAプロフィールをみると,Phgdh mRNAは9.7倍に,それに続く酵素であるPsat1 mRNAは15.5倍に増加していた.硬化糸球体におけるコラーゲン産生も,増加したPHGDHに依存している可能性が考えられた.
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