動物胎生期の腎臓内部に存在する腎発生領域に異種のネフロン前駆細胞(NPC)を移植し、移植する環境の腎発生シグナルを借りることで、移植細胞からのネフロン再生を我々は戦略としている。そこで申請者はNPCに特有に発現するSix2遺伝子に着目し、Six2遺伝子が発現する細胞だけにジフテリアトキシンレセプターを発現させ、特異的に細胞を除去させるジフテリアトキシン(DT)自殺誘導モデルを利用し、外来性のNPCと既存のNPCを置換することで新たなネフロンの再生が可能であることを示した。さらに我々はラット-マウスの異種間でも腎発生シグナルの相同性からネフロンへの分化誘導が可能であることを報告した。しかし、げっ歯類ではDT受容体をSix2 promoter下にノック インすることで自殺誘導モデルを確立できたが、ヒトNPCを移植細胞にする場合に、ヒトにおいてはDT受容体をユビキタスに発現しているため、DTによる選択的な自殺誘導ができなかった。そこでDTを使用した自殺誘導モデルではなく、タモキシフェンを投与することでジフテリアトキシンAフラグメント(DTA)が発現し特異的な細胞除去が可能となる、Six2-ERT2-CreとloxP-DTAの組み合わせによるNPC除去システムを新たに構築した。このタモキシフェン誘導システム(DTAシステム)を用いることでヒト細胞移植時にも自殺誘導の影響を移植細胞側(ヒト細胞側)に与えることなくNPC置換を進めることが可能であると考えた。まずマウス同種間、およびマウス-ラット異種間でDTAシステムによるネフロン再生が可能であることを示した。次に我々はヒトiPS細胞からNPCを分化誘導させ、誘導ヒトNPCをこの胎生期腎臓に移植し器官培養したところ、マウスの後腎内部でヒト細胞がネフロン様構造へと分化した。今回の申請を通し、マウス腎発生領域内でヒトiPS由来のNPCからネフロン様構造体への分化誘導に成功した。
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