我々は内皮酸化ストレスの亢進が、糖尿病性腎臓病(DKD)の糸球体上皮細胞障害を早期に惹起することを見出し、内皮-上皮連関に着目した。1型糖尿病患者の血漿中ATP濃度は健常人と比較して著明に増加しており、慢性高血糖やshare stressによる内皮でのATP産生亢進・分泌増加がその要因の一つと考えられている。「DKDの糸球体障害進展過程において、血管内皮由来ATPが糸球体上皮P2受容体を介して、上皮細胞内へのCa2+流入増大により上皮障害を促進する」との仮説を立てこれを検証することを目的とした。 ヒト糸球体内皮細胞を用いて、高血糖負荷、また内皮障害を想定しKT5823 (プロテインキナーゼG阻害薬)、L-NAME (一酸化窒素合成酵素阻害薬)使用下に上清中のATP評価を行った。上清中ATP濃度は高血糖負荷、内皮障害存在下のいずれにおいても増加を認めた。 In vivo実験では、C57BL/6マウスとeNOS-KOマウスを使用し、ストレプトゾトシン(STZ)により糖尿病モデルを作成した。血漿中ATP濃度、尿中アルブミン排泄の評価を行った。eNOS-KO/STZマウスの血漿中ATP濃度はSTZマウスと比較して有意な上昇を認めており、尿中アルブミン排泄量も著明な増加を認めた。 上皮細胞Ca2+変化評価のため、上皮細胞特異的Ca2+感受性蛍光蛋白質発現マウスを作成し、eNOS-KOマウスと交配させ、STZにより糖尿病を誘発させた。糖尿病発症後2週間の時点で、二光子レーザー顕微鏡による上皮細胞の蛍光蛋白の蛍光強度の測定を行なったところ、STZマウスよりeNOS-KO/STZマウスでより強い蛍光を観察し、糸球体上皮細胞内のCa2+濃度が増大していることが示唆された。 DKDにおける上皮細胞障害の障害進行には細胞内Ca2+濃度の増大が関与しており、内皮障害により増強されることが示唆された。
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