研究課題/領域番号 |
17K16118
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤内 玄規 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (00748353)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 運動ニューロン疾患 / ALS / SBMA / TBK1 / 筋萎縮性側索硬化症 / 球脊髄性筋萎縮症 |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)および球脊髄性筋萎縮症(SBMA)などの運動ニューロン疾患は致死的神経変性疾患であり、神経細胞の変性と蓄積が見られる。近年ALS患者の大規模遺伝子解析によりオートファジーに関わるTBK1遺伝子の変異が報告されており、運動ニューロン疾患におけるオートファジーの働きを解明することが治療法の開発につながると考えられる。 本研究では日本人におけるALS患者TBK1遺伝子変異の頻度と特徴を解析するために日本人の孤発性ALS患者713例のエクソーム解析を行った。その結果、新規を含む9例のTBK1遺伝子のrare variantを同定した。日本人患者においてもTBK1遺伝子変異の頻度が多いことが判明し、またいくつかのstop gainとなる変異も見つかった。このことよりTBK1がALS関連遺伝子と示唆する欧米の研究を支持する結果となった。今回見出した遺伝子変異がTBK1の機能に与える影響を解析するため、ヒトTBK1遺伝子をクローニングし、site directed mutagenesisにより変異を持つTBK1遺伝子を作成した。TBK1が作用すると報告のある分子と変異を持つTBK1を培養細胞モデルに発現させ相互作用を解析したところ、loss of function(LoF)変異を持つTBK1はALS関連遺伝子であるオプチニューリン(OPTN)との相互作用が無くなるなどの機能不全が見られた。さらに孤発性ALS患者由来の不死化リンパ球におけるTBK1の発現を解析するとLoF変異によるTBK1タンパク質の発現量が低下していた。またSBMAの培養細胞モデルにおけるTBK1の発現を解析すると発現量の低下が見られ、この発現低下は、SBMA治療薬の投与で改善した。今後マウスモデルを用いてにおける運動ニューロン疾患におけるTBK1の働きを検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、日本人孤発性ALS患者の大規模エクソーム解析を行いTBK1の新規rare variantを同定した。患者713例のうち9例にTBK1遺伝子のvariantが見つかり、コントロール800例ではTBK1遺伝子のvariantは1例のみであった(OR = 10.2 ; p = 0.008, 95% CI = 1.67 - 62.47)。またLoF変異は3例で認められた(nonsense変異1例、deletionによるflame shift変異2例)。今回見出した新規変異を持つTBK1導入遺伝子をsite directed mutagenesisにより作成し、培養細胞モデルに一過性強制発現させ関連タンパク質と相互作用を解析したところ、いくつかの変異TBK1でALS関連遺伝子であるOPTNとの相互作用が無くなるなどの機能不全が見られた。また孤発性ALS患者由来の不死化リンパ球からタンパク質及びRNAを抽出し、Real-time PCR及びWestern Blot法を用いて解析したところ、LoF変異によるTBK1の発現低下を確認した。これらの実験でALSにおけるTBK1変異の影響を予定通り確認できている。 またSBMAにおけるTBK1の働きを解析するため、SBMA培養細胞モデルを用いてSBMA病因タンパク質であるARタンパク質とTBK1タンパク質との相互作用を免疫沈降法により解析したところ、異常伸長したCAGリピートを持つARタンパク質とTBK1との相互作用が見られた。SBMA培養細胞モデルにおけるTBK1の発現解析ではTBK1タンパク質の発現量の低下が見られ、SBMAの病態を回復させるとTBK1の発現低下が改善すること確認した。これらの実験でSBMAにおけるTBK1の発現が一部確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はSBMAマウスモデル及びSOD1マウスモデルにおけるTBK1とTBK1に関連する分子の発現をウェスタンブロット法、real-time PCRを用いて解明する。マウスにおけるTBK1の発現と局在は免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション法を用いて解析する。さらに病因である変異タンパク質とTBK1タンパク質との相互作用を免疫沈降法により解析する。 また、現在CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により作成中であるTBK1遺伝子改変マウスをSBMAモデルマウスまたはALSモデルマウス(SOD1)と交配し、TBK1変異を持つ運動ニューロン疾患モデルマウスを作成予定である。このマウスの表現型をRotarod法、Cage activity法、握力測定、体重変化、生存率の5つのパラメーターで測定するとともに組織における原因タンパク質、TBK1、オートファジー関連分子の発現量を主にウェスタンブロット、Real-time PCR、免疫組織化学を用いて解析し、運動ニューロン疾患におけるTBK1の遺伝子変異の影響を調査する。 培養細胞モデルではTBK1遺伝子の高発現もしくはsiRNAを用いたノックダウンを行いTBK1の発現量の変化が病態に与える影響を解析する。さらに培養細胞モデルで病態改善効果のあった薬剤を投与し、プロモーターアッセイなどでTBK1への影響を解析する。また剖検組織を用いてSBMA患者及びALS患者におけるTBK1の発現や局在を解析予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)3月に使用した動物実験施設のマウス飼育費の支払いが平成30年度になる。 (使用計画)3月に使用した動物実験施設のマウス飼育費の支払いに充当する。
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