iPS細胞は,患者自身のゲノム情報を引き継ぎながら,無限の増殖性を維持しつつ,あらゆる種類の組織細胞に変化させることが出来る特性を持つことから,疾患研究応用されるようになった.その中でも,神経細胞が立体構造を取りながら、その周囲には神経細胞以外のグリア細胞種を含む、生理的状態に近い細胞外環境を再現することを目的として3次元培養系が着目されている.そこで、ヒトiPS細胞から脳神経系細胞への分化誘導法を確立し,3次元脳組織をin vitroで再構築を目指し.最終的に,生理的ヒト脳組織構造を模したモデルを用いた病態再現と,創薬プラットフォームの構築を目的として研究を展開した。 脳を構成する素子としての神経細胞やグリア細胞を,均質かつ再現性良く調整する必要がある.この点を解決するため,我々は,一度の継代操作で500倍以上に細胞数を増やすことが出来るiPS細胞から起算して,わずか1週間でほぼ100%という高い均質性を持つ大脳皮質神経細胞を調整する分化誘導系を開発した(Kondo et al. 2017 Cell Reports).この分化誘導系を用いたアルツハイマー病疾患モデルでは,アルツハイマー病病態において重要なAβのモデル化と、安全性情報が整備された既存薬ライブラリスクリーニングを行った。Aβ動態を改善する既存薬を6薬剤同定し,このうちBromocriptine・Cromolyn・Topiramateの組み合わせを抗Aβカクテルとして構築することに成功した.この中で,異なる遺伝子変異を持つ家族性ADや孤発性AD,あるいは健常人の大脳皮質神経細胞にカクテルを投与し、どの個体に有効性が期待できるかを調べることで、培養皿の中での臨床試験「in vitroトライアル」を提案・実施した。
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