昨年度の実験で、ヒト間葉系幹細胞Mesenchymal Stem Cel:MSC)はプリオン感染マウスの生存期間を延長しうることが分かった。そこでプリオン感染マウスにMSCを投与する上で適した細胞数を検討した。ヒト化プリオンタンパクを発現するノックインマウスにヒトプリオンを感染させ、ヒト骨髄由来不死化MSC(UE7T13細胞)を投与した。マウスはPBS投与群 (n=3)、 細胞数1x10^6個投与群(n=5)、細胞数2x10^6個投与群(n=6)の3群に分けた。感染110日後(マウスの発症後)からPBSおよび骨髄間葉系細胞を尾静脈より投与した。PBS投与群の平均生存期間が117.3±2.3日(中央値116日)であった。1x10^6個投与群では平均生存期間が137±13.4日(中央値129日)となり、PBS投与群と比較して有意に生存期間が延長した。(p<0.01) 2x10^6個投与群では未だ生存しているマウスが2匹いるが、残り4匹のマウスは生存期間120日未満であり、PBS投与群と比較しても生存期間は延長しなかった。この結果から、投与細胞数が多い場合、治療効果は非常に優れているが、何らかの副作用によって死亡する危険性もあると考えられる。 以上の結果より、MSCの投与はプリオン病の治療法になりうることが示唆された。その一方で投与するMSCの数は多ければ多いほど良いというわけではないと考えられる。今後、それぞれのマウスの病理学的変化を検討し、MSCの治療効果についてその作用機序と2x10^6個投与群で生存期間が延長しなかった原因を明らかにしていく予定である。
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