これまで、神経変性疾患におけるin vitroの研究は、ニューロン単独に着目した研究が主に行われており、グリア側における異常を踏まえた研究報告例は殆ど存在しない。しかしながらニューロン‐グリア間の相互作用が神経変性の病態に深く関与していると近年では考えられており、本提案では申請者が開発した、これまで効率的な誘導が難しかったヒトiPS細胞からグリア系細胞を高効率に誘導する分化誘導系を用いて、複雑なニューロン‐グリア間ネットワークを疾患iPS細胞を用いて再現し、神経変性疾患おけるグリア細胞の関与を明らかにすることを目的とする。同時にこの評価系を小スケール化し、ニューロン‐グリアの相互作用に着目した創薬スクリーニングを実現するシステムを開発する。 平成30年度は主に以下の研究を実施した。 ①これまで病態表現型を検出するために長期間の培養が必要であったが、申請者の同定した成熟/老化促進化合物を用いることによって短期間の培養で老化した神経細胞を得ることを可能にした。この化合物を用いた培養法は、iPS細胞由来グリア系細胞においても同様に老化を促進させることを見出した。 ②これまで、パーキンソン病iPS細胞由来ドパミン神経細胞にて観察が困難であったα-シヌクレインの凝集を”①にて確立した培養法”を用いることにより簡便に検出することが可能となった。 ③健常者iPS細胞から誘導したドパミン神経細胞とグリア系細胞を共培養を行い30日間前後まで安定して培養が可能である条件を検証した。 本研究は、これまで検出することが困難であった高齢発症神経変性疾患の病態を早期に検出できる技術を確立するとともに、複雑なニューロン-グリア間ネットワークを再現するための培養システムの構築を行った。
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