肥満時にHIF-1αの活性化に関与する代謝物を同定するため、肝臓マクロファージ内の代謝産物を解析した。肥満マウス、非肥満マウス、肥満HIF-1α欠損マウスより、肝臓マクロファージを磁気ビーズ法により分離し、メタボローム解析を行なった。肥満マウスと肥満HIF-1α欠損マウスの肝臓マクロファージではsuccinateに違いを認めなかった。またクエン酸回路の他の代謝物も同様にHIF-1αとの関連を確認できなかった。肝臓マクロファージの分離に時間を要するため、調製中に細胞内の代謝が変化した可能性がある。 肝臓組織では、増殖因子であるERK2の活性化(リン酸化)がHIF-1α欠損により減少した。しかし、肝組織におけるEGFやPDGF、VEGFといった増殖因子は差を認めなかった。肝臓マクロファージにおける炎症関連遺伝子の発現は、肥満マウスでは非肥満マウスに比べ増加し、肥満HIF-1α欠損マウスでは肥満マウスに比べ発現が低下していた。マクロファージHIF-1α欠損による炎症反応の軽減が、肝がん減少の一因と考えられる。一方、HIF-1αの安定化に低酸素が重要であることは広く知られているが、過去の自験から肥満マウスの肝臓および肝腫瘍では低酸素となっている細胞は一部に限られており低酸素によるHIF-1αへの影響は今回のモデルでは小さいと考えられる。 今回の研究では、低酸素以外の何らかの因子が肥満時に肝臓マクロファージのHIF-1αを活性化し肝がん発症の促進に関与すると示唆された。HIF-1αを活性化させる機序の同定には至らず、今後の課題である。 これらの結果はJ Diabetes Investig. 2019 Mar 21. doi: 10.1111/jdi.13047.に掲載された。
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