スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は,細胞内外で細胞の機能発現に寄与する生理活性脂質である.本研究では,S1Pがその2型受容体(S1P2)を介して肥満や脂肪肝の増悪化に起因しているか否かを検討し,以下の知見を得た. (1)マウスの白色脂肪組織から調製した間質血管細胞群(SVF)を脂肪細胞へ分化誘導する時にS1P2阻害剤のJTE-013を加えると細胞内トリグリセリド (TG) 量が約4.1倍に増加した.一方,SVFをS1P2刺激薬 (CYM5520) と共培養すると細胞内TG量が半分に減少した. (2)高脂肪食負荷により肥満誘導したS1P2欠損マウスでは,野生型マウスと比べて体重や血糖値,インスリン抵抗性,耐糖能に差は認められなかったが,肝脂肪の蓄積が低いことが判明した.肝脂肪の蓄積について,マウス初代培養肝細胞を用いてin vitro系で調べ,JTE-013との共培養によりTG蓄積が低くなることを確認した. (3)当初予定していなかったが,S1Pがマウスのエネルギー消費機構に及ぼす影響を調べている過程で,マウスを寒冷環境下で飼育すると褐色脂肪組織のスフィンゴシンキナーゼ活性が上昇し,S1Pも約2倍に増加することを見出した.さらにS1P2欠損マウスでは野生型マウスよりも寒冷環境下での体温低下が著しく,体温維持 (熱産生) 能力が低下していることを発見した.
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