研究課題
研究代表者は、自己免疫疾患の発症における免疫担当細胞内のコレステロール代謝の病態整理的意義を解明することを目的として研究を進めている。特に、抗原提示細胞内のコレステロール代謝異常が自己免疫疾患の発症原因である可能性と、抗原提示細胞内のコレステロール量の減少が新しい自己免疫疾患の治療薬の確立につながる可能性を検証することを目的としており、研究期間内に、以下2つの課題に取り組むことを計画している。① SLEモデルマウスにおけるコレステロール代謝能の解析およびコレステロール逆輸送系促進の病態への影響の解析② ヒトSLE患者における病態進展とコレステロール代謝能の経時的変化の解析研究代表者は平成29年度中に、上記の課題に関して次の成果を得た。まず、SLEモデルマウスであるC57BL/6 lpr/lprマウスと対照野生型マウスを経時的に比較することにより、血中コレステロール濃度に変化がなくてもSLEモデルマウスにおいては免疫担当細胞内のコレステロール含量が多いことを見出した。またこのとき、血中中性脂肪濃度やリポプロテイン分画にも変化がないことを明らかにした。さらに、脾臓およびリンパ節の免疫担当細胞では脂質蓄積の挙動が異なることを明らかにし、血中免疫担当細胞の挙動を含めて、現在さらに詳細に解析を進めている。また、ヘルパー依存性アデノウイルスを用いたApoA1の長期安定発現によるSLE病態発症・進展への影響を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
当該期間内にSLEモデルマウスの基礎的な解析を行い、血中コレステロール濃度に変化がなくてもSLEモデルマウスにおいては免疫担当細胞内のコレステロール含量が多いことを見出した。またこのとき、血中中性脂肪濃度やリポプロテイン分画にも変化がないことを明らかにした。今後、ヒトSLE患者の検体を用いた解析や、抗原提示細胞ないのリピドミクス解析を行う必要があるものの、研究計画全体としては大きな問題はなくおおむね順調に進展していると判断できる。
本年度以降に予定している研究計画は以下の通りである。① SLEマウスから単離した免疫担当細胞、特に抗原提示細胞におけるリピドミクス解析:研究代表者らは、コレステロール逆輸送により細胞からコレステロールが引き抜かれる際には、細胞全体からではなく、細胞膜特異的にその含量が減少することを見出している。また、コレステロール量のみでなく、リン脂質組成が変化することを予備的に見出している。本研究では、リン脂質、特にホスファチジルコリンを中心に、リピドミクス解析を行う予定である。② ヒトSLE患者におけるコレステロール代謝能の解析と抗原提示細胞における脂質代謝解析:共同研究者のグループにより、慢性関節リウマチ患者の病態とHDLのコレステロール排泄能に相関関係があることが報告されている。ヒトSLE患者あるいは健常者の血液を用いてHDLのコレステロール排泄能に差があるかを検討する。また、抗原提示細胞内のリピドミクス解析を行い、マウスとヒトの病態で共通して変化する脂質を明らかにすることにより、SLE発症のより詳細な分子機構の解明を目指す。
(理由)研究は順調に進んでいたが、既に手元にある試薬類を使用できる実験が多かったため、当初の予定よりも当該助成金を使用する機会が少なかったことが大きな理由である。(使用計画)平成29年度の終盤より該当助成金の使用が増加しつつある。その理由として、SLEモデルマウスの解析結果より、組織によって免疫担当細胞内の脂質代謝の挙動が大きく異なり、多臓器で解析する必要があることが挙げられる。本年度は、臓器から単離した免疫担当細胞内のリピドミクス解析を計画しているが、血液中、脾臓、リンパ節の3種類で行う必要があるため、昨年度からの繰越分で補填する必要があり、当該助成金を使い切る予定である。
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Nature Medicine
巻: 24 ページ: 304-312
10.1038/nm.4479