本研究の目的は、2型糖尿病治療薬であるメトホルミンの新たな膵β細胞保護機構、すなわち高脂肪食、高血糖及び小胞体ストレスといった膵β細胞の過負荷抑制効果を明らかにすることにある。高脂肪食を1週間負荷したマウスでは、インスリン抵抗性は惹起されないが、膵β細胞の代償性増殖を認めた。この条件下でメトホルミンを投与すると膵β細胞増殖が抑制された。また、マウス単離膵島において、メトホルミンは、グルコース誘導性の膵β細胞増殖を抑制した。高脂肪食および高血糖下において、メトホルミンは、AMPKリン酸化を亢進し、mTORシグナルを抑制し、過負荷を軽減している可能性が示唆された。さらに、メトホルミンは、小胞体ストレス誘導性の膵β細胞アポトーシスを抑制し、その機序とし、メトホルミンが4EBP1を介し、翻訳開始を抑制する制御機構が存在する可能性が考えられた。また、一方で、インスリンシグナル非依存的な経路により膵β細胞増殖が惹起されるモデルを確立した。インスリン受容体およびIGF-1受容体阻害薬であるOSI-906をマウスに1週間投与することで高血糖、全身のインスリン抵抗性が惹起され、膵β細胞増殖および細胞量の増大がみられた。以上の結果より、Metは、インスリン抵抗性とは独立して、高脂肪食負荷や小胞体ストレスに伴う膵β細胞への過負荷を直接作用により軽減し、膵β細胞に対して保護的に作用している可能性が示唆された。
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