【背景・目的】脂肪肝は2型糖尿病のリスク因子だけでなく、肝硬変や肝がんへ進行するため、その予防・治療法の開発が急務である。我々がQTL解析により同定した新規糖尿病感受性遺伝子Ildr2は、小胞体に局在する膜タンパク質をコードしており、Ildr2の発現低下が脂肪肝発症に関与する。しかし、ILDR2の生理的役割や機能は不明な点が多い。これまでILDR2機能の解明のため、免疫沈降法及びMALDI-TOF-MSを用いてILDR2結合タンパク質、MOBAT7を同定した。MBOAT7はホスファチジルイノシトール(PI)のアシル転移酵素であり、rs641738 Tアリルは脂肪肝のリスクを増大させ、肝臓中PIの変容に関連することが報告されている。そこでILDR2が脂肪肝における肝臓中PI組成の変化に関与するか否かを検討した。【方法】コリン欠乏食を用いた2つのモデルマウス、1. ILDR2-floxマウスにAAV-Creを投与した肝臓特異的ILDR2ノックアウトマウス(LKO-ILDR2)、2. AAV-ILDR2を用いた過剰発現マウス(OX-ILDR2)を作製し解析した。【結果】LKO-ILDR2マウス肝臓は、コントロールと比べ肝中性脂肪が1.6倍有意に増加した。LKO-ILDR2マウスにおいて、分析したほとんどの肝臓中PI分子種はコントロールと比べ増加した。一方、OX-ILDR2マウスでは、有意に減少した。【考察】当初、LKO-ILDR2マウスの肝臓中PI分子種はこれまで報告されているMBOAT7ノックアウトマウスの肝臓中PI分子種の構成と類似すると推測していたが、予想に反した結果となった。ILDR2は直接MOBAT7の活性に変化を与えなかったが、肝臓中のリン脂質の構成にILDR2が関与する可能性があるため、今後さらなるILDR2の役割を解明する必要がある。
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