研究課題/領域番号 |
17K16156
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
田島 彩沙 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20780688)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アンチザイム / ポリアミン / 脂肪酸 / ATPクエン酸リアーゼ |
研究実績の概要 |
ATP クエン酸リアーゼ (ACLY) は、脂肪酸の前駆体であるアセチルCoA の合成を細胞質において触媒する酵素である。ACLY は脂肪酸合成の増加に伴って発現・活性が増加しており肥満治療のターゲット分子として注目されている。他方、ポリアミンも肥満ラットで高値を示すが、ACLY との関係についてはよくわかっていなかった。しかし、これまでの研究で、ポリアミン代謝の調節因子であるアンチザイム (AZ) がACLY に結合しACLYを活性化することを明らかにした。これは、ポリアミン代謝と脂肪酸代謝の二つの経路が連動していることを示唆するものである。本研究は、AZ とACLY の活性化メカニズムの解析によって両代謝の関係を解明し、新たな治療ターゲットとなる可能性を追求することを目的としている。これまでに脂肪前駆細胞である3T3-L1細胞を用いて脂肪細胞の分化過程におけるAZとACLYの関係解析を行ってきた。3T3-L1細胞をインスリン、デキサメタゾンを用いて脂肪細胞へと分化させた際、分化誘導前と分化誘導時、分化誘導後の3段階においてそれぞれ、ポリアミン量及びACLY活性の変化が見られた。いずれの段階においてもAZを過剰発現するとACLYの活性は亢進し、siRNAによってノックダウンするとACLYの活性の低下が見られた。また、ポリアミン量もAZの発現によって変化が見られた。よって、これらの反応はAZを介するものと考えられた。さらに、研究を進めていく中で細胞内ポリアミン上昇時にAZがACLY活性化を介してポリアミン代謝基質であるアセチルCoAの量を調節し細胞外へのポリアミン排出を促進している可能性が新たに見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初の計画では脂肪酸合成におけるAZとACLYの結合に着目し、これまでAZを介した脂肪細胞の分化促進作用の解明を行なってきた。しかし、研究を進めていく過程で細胞内ポリアミン濃度上昇時に、AZがACLY活性化を介してポリアミン代謝基質であるアセチルCoAの量を調節し細胞外へのポリアミン排出を促進している可能性が出てきた。これは、ポリアミン代謝とアセチルCoAを介する脂質代謝のメカニズムを明らかにする上で非常に重要な発見であると考えさらに研究を進めた。その結果、細胞内ポリアミン濃度が高くなった場合、ポリアミン毒性による細胞死を回避するためにポリアミン代異化が亢進するが、この反応は脂肪酸合成よりも優先的に働くことがわかった。さらにポリミン異化にアセチルCoAが使われ続けると、脂肪酸合成に使用されるアセチルCoAが不足するため脂肪酸の産生低下が起き、細胞膜の脆弱性、アポトーシスの誘導が確認できた。当初の計画にはなかった解析ではあるが本研究によってポリアミン代謝と脂肪酸合成の新たな相互関係が明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までに終了していない部分の解析を続けるとともに、新たに明らかとなったポリアミン代謝へのACLYの影響の解明を進め高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や質量分析装置(LC-MS)を用いて代謝産物の測定も行う予定である。さらに、来年度は最終年度となるため、これまでの成果を論文にまとめ報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬や器具の購入時期がキャンペーン価格で安価となっていたことや、当初購入を予定していた試薬・器具よりも安価な製品を見つけて購入したために、物品費の節約をすることができた。 新たな発見があったために、今後の実験の展開次第では、試薬・器具がさらに当初の計画以上に必要となる可能性があるために、節約した費用をその補充に充てる予定である。
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