癌組織におけるCSC(cancer stem cells)の存在が指摘されて久しい。CSCは癌細胞のうち少数の細胞集団で、癌の発生や転移・治療抵抗性等に大きく関わっている。本研究では、CSCの機能的なマーカーとしてレドックス調節機構、主にROS(活性酸素)に着目している。先行の実験より、甲状腺癌細胞には少数のROSlow分画細胞が存在し、ROSlow細胞はROShigh細胞と比較すると、スフィア形成能が優位に高いことを見出した。また可塑性がありそれぞれの分画をダイナミックに動くことを確認した。 以上より、本研究ではCSC⇒non-CSCを促進/non-CSC⇒CSCを抑制する因子の同定のために、ROSをターゲットとして、レドックス調節機構を解析することを目的にした。 今年度新たに(1)細胞内ROSは放射線照射により増加し、スフィア形成は減少する。(2)細胞内のROSによりDNAはダメージを受けるが、そのDNAダメージはROSlow分画の方がhigh分画に比べて少ない。しかしながら放射線照射するとどちらの分画も同等にダメージを受けているという結果を得た。 では、どのようにしてROSlow 細胞がROSを低く保っているのか?その機序を解明するためにその代謝経路に着目した。細胞がATPを産生する経路をして解糖系と酸化的リン酸化が知られている。この2つの経路のバランスに違いがあるのではないかと考えそれぞれを計測した。ROSlow細胞では、high細胞と比較して、基礎および最大酸化的リン酸化および解糖が減少し、それによってROSlow細胞は代謝的に静止状態にあった。前年度の結果と合わせて考えると、ROSlow細胞がROSを低く保つ機序としてGSHレベルの上昇と酸化的リン酸化の低下はどちらも寄与している可能性が考えられた。ここまでをまとめて論文として発表した。
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