ステロイドホルモンをはじめとする内分泌系は、生命活動や生体恒常性に重要であるが、近年、食の欧米化、身体活動量の低下によるエネルギー収支バランスの崩れに併せて内分泌作用の破綻が重なり、肥満、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、動脈硬化の発症を増加させると考えられている。女性ホルモンであるエストロゲンは様々な代謝系の調節に関与しているが、詳細な分子機構は明らかではない。我々は、エストロゲン応答遺伝子COX7RPがミトコンドリア呼吸鎖超複合体の制御因子であることを世界で初めて解明しており、エストロゲンと代謝系とを結ぶ鍵分子として注目されている。本研究では、Cox7rpノックアウト(KO)マウスの糖代謝における表現型を解明するため、糖負荷・インスリン負荷試験を行い、Cox7rpKOマウスの血糖値が低値を示し、その原因として、Cox7rpKOマウスはピルビン酸負荷試験において血糖値が低値であったことから、糖新生の能力が低下していることを報告した。さらに、Cox7rpKOマウスの肝臓を用いた2次元電気泳動の結果から、ミトコンドリア呼吸鎖超複合体の形成がWTマウスと比較して低下しており、これがATP産生量の低下に繋がっていることを見出した。WTマウスおよびCox7rpKOマウスの肝臓より調製したミトコンドリア分画におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIとIVのそれぞれのサブユニットであるRispとCox1のタンパク質量には両者の間で変化は認められなかったことから、COX7RPはミトコンドリア呼吸鎖超複合体の形成を介した機能的な制御により、生体レベルでの代謝に影響を及ぼしていることが示唆された。エストロゲンは疾患・がんにも深く関与しており、病因解明や予防、治療法の開発に向け、その作用メカニズムの解明が重要であることが示唆された。
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