研究課題
カポジ肉腫ウイルス(KSHV)を原因とする原発性滲出性リンパ腫(PEL)では、従来の化学療法に抵抗性で予後が不良であり、治療開発のための病態解明が望まれている。我々はこれまでin vitro及びモデルマウスの系を解析することにより、PELにおける治療抵抗性シグナルの解析及び治療開発の基礎研究を行ってきた。これらの成果及び過去の報告から、種々の標的遺伝子を制御しうる転写因子の発現低下にその発がん原因がある可能性に着目した。本研究では、in vitro及びin vivoでB細胞転写因子の発現を薬剤誘導性に回復させることで、(1)リンパ腫細胞の腫瘍制御機構、(2)ウイルス潜伏感染のメカニズム、(3)治療応用を目指した基礎研究を行い、新たな治療薬開発の分子基盤につなげる。原発性滲出性リンパ腫で抑制されていたPU.1、Pax5の発現を回復させたところ、リンパ腫細胞の増殖抑制作用を有することがin vitro及びin vivoの系で明らかとなった。マイクロアレイ解析を行ったところ、PU.1はアポトーシスに関わる遺伝子を活性化することで細胞死を誘導し、PAX5は細胞周期に関わる遺伝子を抑制することで、それぞれ抗腫瘍作用を認めていた。PU.1は、ウイルスの潜伏感染から溶解感染に関わる転写因子RTAを活性化させていたが、PAX5によるRTAの活性化は軽微であった。以上より、PELにおいて、B細胞転写因子のうち、PU.1、PAX5が、がん抑制遺伝子として機能しうるとともに、これらの遺伝子を活性化させることが新たな治療戦略として考えられることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
B細胞転写因子のうち、PU.1、PAX5が、原発性滲出性リンパ腫において、がん抑制遺伝子として機能することをin vitro及びマウスモデルを用いたin vivoで明らかにした。抗腫瘍作用のメカニズムとして、PU.1はアポトーシスに関わる遺伝子を活性化し、一方、PAX5は細胞周期に関わる遺伝子を抑制することを見出しており、本研究は、おおむね順調に推移していると考えらえる。
今後は、PU.1及びPAX5の詳細な抗腫瘍メカニズムを明らかにするとともに、治療応用が可能か、低分子化合物や天然物等による新たな治療薬剤の探索を行っていく。また、KSHVウイルスタンパクであるLANA、vFLIP、vCyclinはウイルス潜伏感染維持において重要な役割を果たすとともに、腫瘍化への関与が示唆されている。これらのウイルスタンパクをヒトB細胞の細胞株等に遺伝子導入し、B細胞転写因子及び標的遺伝子がどのように変化するかについて、解析を行い、ウイルスタンパクが腫瘍化を引き起こすメカニズムについて明らかにする。
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巻: 41 ページ: 2366-2374
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