研究課題/領域番号 |
17K16189
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
糸永 英弘 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 客員研究員 (70530442)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 白血病 / 治療関連白血病 / DNAメチル化 / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
固形癌や造血器腫瘍に対する抗癌剤または放射線治療後に発症した治療関連白血病について、長崎県において疫学調査を行ったところ1164例の白血病症例のうち約10%が治療関連白血病に分類されることが明らかとなった。 本研究の目的である治療関連白血病の病態形成に関わるエピゲノム異常を同定するために検体を採取し、網羅的な遺伝子解析を行う予定である。特に、治療関連白血病症例およびde novo白血病症例から得られた骨髄血中の白血病幹細胞を含むCD34陽性細胞分画を抽出し、DNAメチル化酵素(DNMT1、DNMT3A、DNMT3B)の遺伝子転写産物量を測定する。また、DNAメチル化アレイにより網羅的にDNAメチル化状態を解析する。そして、治療関連白血病症例とde novo白血病症例を比較し、治療関連白血病症例に特異的な異常を見出す。現在までに疫学調査から得られた治療関連白血病の特徴を有する治療関連白血病5例とde novo白血病50例から解析用の検体を採取し、遺伝子解析を進めている。 今年度の成果としては疫学調査の結果から、本邦における治療関連白血病の臨床的な特徴の解析を進めており、その成果を学会発表および論文化の準備を進めている。また、対象症例のうち経時的な検体の提供を得ることができた2症例において、白血病クローン細胞の推移について興味深い結果を見出すに至った。この解析結果については論文化の準備を進めている。主目的であるDNAメチル化酵素とマイクロRNA発現について解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、本邦の治療関連白血病の臨床的な背景を明らかにするとともに、分子生物学的な解析を行う対象症例の基盤的な臨床情報を得るという初年度の目的を達成するために、長崎県の治療関連白血病(骨髄異形成症候群、急性白血病)の疫学研究を行った。長崎県において血液疾患の診療を行う関連病院9施設において、2000年1月から2016年12月までの期間に骨髄異形成症候群と白血病の診断を受けた症例について臨床情報の収集を行った。現在は統計学的な解析を進め、学会発表と論文化の準備を行っている。 平成30年度は解析のために得られた検体(治療関連白血病5例とde novo白血病50例)における基本的な遺伝子異常の情報を収集するために、遺伝子変異の解析とSNPアレイ解析を行った。経時的に複数検体が得られた症例のうち、3症例(治療関連白血病2例とde novo白血病1例)において骨髄性腫瘍の病態形成に関してクローン進化の過程が遺伝子異常の観点から興味深い結果が得られた。この3症例においては現在論文作成を行っており、1症例については論文投稿中である。 また、治療関連白血病の白血病幹細胞分画(CD34陽性細胞)を用いたDNAメチル化酵素の発現解析、網羅的なDNAメチル化解析とマイクロRNA発現解析を行う予定である。DNAメチル化プロファイルとマイクロRNAの発現パターンについて、de novo症例と治療関連白血病症例で比較する。特徴的なマイクロRNA発現パターンの病態形成に関わるDNAメチル化異常の部位を同定し、その異常とDNAメチル化酵素(DNMT1、DNMT3A、DNMT3B)の発現パターンとの関連性を調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
疫学研究に関しては、治療関連白血病症例の疾患情報と治療関連白血病発症前の治療内容の関係を明らかにするために現在のデータベースから解析のためのデータ抽出を行う。特に、欧米と本邦との固形癌の発症頻度や治療内容(抗癌剤の選択肢)などが違うことから、本邦の治療関連白血病における臨床的特徴が明らかになることを期待し、発症前の治療情報として使用した抗癌剤の種類や放射線治療の詳細な内容と、治療関連白血病の呈する染色体異常や既存の予後因子との関係を検証するように統計解析を進めていく。2019年度中に解析結果を論文投稿する予定である。 現在得られている検体を中心として、網羅的な遺伝子解析を進めていく予定である。特に、遺伝子異常の解析から得られた結果から、骨髄性腫瘍の発症を経時的に評価することで興味深い結果が得られた3症例については論文化を進めていく。そのうち1症例は標的シーケンス解析による遺伝子変異とSNPアレイ解析による染色体の構造異常の結果を中心として論文を作成し、現在論文投稿中である。残りの2症例についても、同様の解析から得られた結果を基として論文執筆を行っており、2019年度中に論文投稿を行う予定である。 マイクロRNA発現とDNAメチル化パターンの解析を中心として解析を進めていく。特に、白血病幹細胞分画(CD34陽性細胞分画)における網羅的なDNAメチル化パターンの解析については、研究代表者らが実施した先行研究において用いた方法にて検証を行う予定である(Itonaga H, et al. Leukemia 2014.)。最終的には白血病を発症する前の検体が得られる症例において、マイクロRNAやDNAメチル化異常がどのように存在するのかを検証し、治療関連白血病発症のリスク予測への応用を試みたい。
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