研究課題
フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍(以下MPNと略する)は、造血幹細胞レベルに体細胞変異が生じることで引き起こされる造血器の腫瘍である。MPNを引き起こすドライバー遺伝子変異として、JAK2、MPL、CALR変異が同定されているが、これらの遺伝子変異の検出されないtriple-negative症例が存在しており、その一部は予後不良との報告がある。これまでに、申請者の所属する研究室では、MPN疑い1804症例における、JAK2変異、CALR変異、MPL変異の有無と、各患者の臨床情報を収集し、WHO2008診断基準を用いて、triple-negative MPN確定症例を同定し、正常と腫瘍組織のゲノムDNAのペアが得られた40症例について、次世代シークエンサーを用いて全エクソン配列を決定した。そして、得られた配列情報を元に、腫瘍検体に共通するこれまでに報告のない新規体細胞遺伝子変異を同定している。2017年度は、MPNを引き起こす新規のドライバー変異候補遺伝子の腫瘍原性を証明するため、ドライバー変異候補遺伝子の野生型遺伝子のレトロウイルスベクターへのクローニングと、変異型遺伝子の発現ベクターの構築を行い、これらのウイルスベクターからレトロウイルスを作製し、BaF/3細胞に感染させた後、感染細胞のGFP発現を指標にセルソータで分取し、変異遺伝子を発現する細胞を株化した。現在は、細胞の増殖アッセイを行い、変異遺伝子導入細胞がサイトカイン非依存性の細胞増殖能を有するか、検討を行っている。本研究の推進により、triple-negative MPN発症の新たな分子基盤が解明されることが期待され、患者の迅速な診断や、有効な治療法の開発に直結することから、本研究の医学的意義は極めて大きい。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、MPNを引き起こす新規のドライバー変異候補遺伝子の野生型遺伝子とその変異型遺伝子を発現する細胞の株化を終えている。さらに、現在は、それらの細胞の増殖アッセイを行い、変異遺伝子導入細胞がサイトカイン非依存性の細胞増殖能を有するか、検討を行っており、おおむね研究は順調に進んでいる。
今後は、2017年度に樹立した細胞株及び、UT-7/GM細胞を用いて、分化の偏向性について検証する。分化誘導シグナルとして、様々な濃度のエリスロポエチン(EPO)やトロンボポエチン(TPO)などを作用させ、ドライバー変異遺伝子によるサイトカインへの感受性の亢進が、細胞の分化の偏向性を引き起こすことを、赤芽球(CD235a)や巨核球(CD42b)マーカーの染色を行うことで明らかにする。本研究に利用するUT-7/GM細胞は、多分化能を有する極めてユニークな細胞株であり、エリスロポエチン(EPO)の刺激によって赤芽球に分化する一方で、トロンボポエチン(TPO)の刺激によって巨核球に分化することから、これらの細胞の産生が亢進しているMPNの病態を解析するには最適な細胞株であると考えられ、本研究課題の独創性は極めて高いと言える。
研究協力者の協力により、順調に研究が進んだ。そのため、次年度への使用額が生じたが、細胞の培養に必要な培地や血清、また分化の偏向性を解析するにあたり使用を予定しているサイトカインや、マーカーを染色するための抗体の購入費用などに使用する予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
Journal of Biological Chemistry
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International Journal of Hematology
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