研究課題
SLAMF3は、免疫グロブリン様ドメインを分子内に有するI型膜貫通糖タンパク質であり、他の細胞上に発現する同じ分子をリガンドとして認識するself-antigenである。SLAMF3は、主に、T細胞・NK細胞・B細胞に発現しており、更に、多発性骨髄腫の骨髄腫細胞(腫瘍細胞)においても高発現している。新たな骨髄腫細胞同定抗原としてSLAMF3の有用性を検討するため、骨髄腫患者の骨髄腫細胞においてSLAMF3と骨髄腫同定抗原CD138の発現を詳細に解析した。その結果、骨髄腫同定抗原CD138は病態進行に伴い発現が低下している症例が存在していたが、SLAMF3の発現は病勢進行に関わらず不変であった。しかしながら、骨髄腫細胞におけるSLAMF3の機能は十分には解明されていない。本研究では、骨髄腫細胞におけるSLAMF3の機能の解析し、新規治療薬の標的として検討を行った。更に、近年、様々な免疫関連分子の可溶型が腫瘍患者の血清中に検出されおり、その濃度が病態進行や予後に関連すると報告されている。そこで、骨髄腫患者の血清中の可溶型SLAMF3の濃度をELISA法にて測定した。前年度と今年度の結果から、in vitroとin vivoの解析においてSLAMF3が、アダプター蛋白質GRB2とSHP2を介したERKシグナルの活性化を誘導し、骨髄腫細胞の増悪 (細胞増殖能の亢進と薬剤抵抗性)を強く誘導していることを明らかにした。SLAMF3は骨髄腫の病勢とは関わらず、骨髄腫細胞に高発現しているこことから、免疫治療を含む骨髄腫治療の新たな標的となると推察された。一方、骨髄腫患者における血清可溶型SLAMF3の濃度が、病勢進行を反映しており、可溶型SLAMF3が予後指標として有用であることを本研究で明らかにした。以上のことを纏めて、国内学会と国際学会で発表し、現在は論文を作成し、投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成30年度では、以下の結果を得た。In vivo解析では、SLAMF3陰性骨髄腫細胞を用いて作成したSLAMF3安定型発現細胞と細胞内ドメイン欠失SLAMF3(ΔSLAMF3)発現細胞を免疫不全マウスNOGに移植した。SLAMF3細胞移植NOGマウスはΔSLAMF3細胞移植NOGマウスと比較し、有意に腫瘤の大きくなるスピードが速く、生存期間が短かった。続いて、SLAMF3細胞とΔSLAMF3細胞の間で遺伝子発現の違いを詳細に調べるために、DNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析を行った。Gene set enrichment analysis (GSEA)で解析を行った結果、SLAMF3細胞には、ERKシグナルに関連する遺伝子群が多く同定され、且つ、骨髄腫細胞の増悪化に関連する遺伝子群も亢進していた。更に、SLAMF3を発現している骨髄腫細胞を抗SLAMF3抗体で処理すると細胞増殖能は有意に低下し、薬剤感受性が増加した。つまり、骨髄腫細胞間のSLAMF3-SLAMF3の相互作用が、骨髄腫の増悪化に関与していることを明らかにした。次に、骨髄腫患者の血清中の可溶型SLAMF3濃度をELISA法にて検討した。正常コントロールと比較し、骨髄腫患者では可溶型SLAMF3濃度が有意に増加しており、且つ、骨髄腫の病態進行とともに亢進していた。更に、可溶型SLAMF3高値群の患者は、低値群の患者と比較し、有意に病勢が亢進しており、無増悪生存期間も短かった。可溶型SLAMF3は、骨髄腫細胞の培養上清中、SLAMF3発現骨髄腫細胞を移植したNOGマウスの血清中にも検出された。この可溶型SLAMF3は、骨髄腫細胞が産生するMMP-9により切断されたSLAMF3の細胞外ドメイン部分であった。以上より、SLAMF3は骨髄腫の増悪化に関与する分子であり、その可溶型SLAMF3は骨髄腫の病勢を反映する指標になることを明らかにした。
SLAMF3の細胞内ドメインのチロシンベーススイッチモチーフにはSNP rs509749が存在する。SLAMF3のSNP rs509749のAアレルは、全身性エリトマトーデス(SLE, systemic lupus erythematosus)においてリスクアレルであることが報告されている。しかしながら、骨髄腫患者においてはSLAMF3のSNP rs509749においての報告はない。そこで、骨髄腫患者と健常者において、SLAMF3のSNPアレルの頻度を検討し、更に、アレルの違いで予後に違いがあるのか検討する。また、SLAMF3のアレルの違いによって、骨髄腫の細胞増殖能や薬剤感受性に与える影響を解析する。骨髄腫におけるSLAMF3のSNP rs509749に関して纏めて、論文で発表する。
消耗品(培養、実験関連プラスチッ ク)、実験試薬 (抗体、サイトカイン、real-time PCR試薬、ELISA、等)、NOGマウス購入に使用する。また、論文の掲載料と学会などの成果発表時の旅費に使用する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Oncotarget
巻: 9(78) ページ: 34784-34793
18632/oncotarget.26196. eCollection 2018 Oct 5