研究課題/領域番号 |
17K16200
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
小林 央 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (10749542)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / ステムセルエイジング / 単一細胞RNAシークエンス |
研究実績の概要 |
造血幹細胞の加齢変化は高齢者の易感染性や難治性免疫疾患、造血器悪性腫瘍の罹患率の増加の背景となるが、そのメカニズムは不明である。本研究では様々な時期のマウスとヒトの造血幹細胞の単一細胞RNA-sequence解析を実施して、加齢造血幹細胞特有の遺伝子発現ネットワークを明らかにしてきた。加えて、加齢造血幹細胞で新規に見出した特徴である自己複製能亢進と分化障害を解除する薬剤を探索し、その改善効果の検証と分子機構の解明を図っている。10週齢と2年齢 の個体に加え、中間年齢段階の個体でのscRNA-seq解析を実施した。この結果、造血幹細胞集団の加齢変化は予想よりも早く加齢形質(2年齢の造血幹細胞の発現プロファイル)へと遷移することが明らかになった。さらに、そのような性質は全ての細胞が一様に変化を示しており、加齢に伴い造血幹細胞の一様な性質の変化を示唆した。また、加齢造血幹細胞同様、造血幹細胞特異的遺伝子の発現上昇が7ヶ月齢より認められ、造血幹細胞の機能上の変化に先行して遺伝子発現の変化を認めることが示唆された。 転写因子の相互依存関係については、各転写因子を過剰発現させた上で、他の転写因子の発現変化を定量的PCRによって確認した。加齢に伴って発現が上昇する造血幹細胞の転写因子はいずれも分化と未分化性の両方を制御していることを意味しており、加齢造血幹細胞の自己複製能の亢進は、これら転写因子の分化抑制のバランスの異常によって引き起こされることを示唆している。 これらの遺伝子発現解析に加えて、加齢造血幹細胞のよりよい(造血幹細胞移植に頼らない)機能評価系を確立するために、造血幹細胞をより生体に近い環境で維持する培養法を開発した。本培養法を用いると加齢造血幹細胞は若齢造血幹細胞に比べてより広いダイナミックレンジの環境変化に対して生存しかつ未分化性を維持することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に実施する予定であった本研究期間中に中間年齢段階(7ヶ月、1年齢、1.5年齢)の個体でのscRNA-seq解析を実施した。この結果、造血幹細胞集団の加齢変化は予想よりも早く加齢形質(2年齢の造血幹細胞の発現プロファイル)へと遷移することが明らかになった。さらに、そのような性質は全ての細胞が一様に変化を示しており、加齢に伴い造血幹細胞の一様な性質の変化を示唆した。また、加齢造血幹細胞同様、造血幹細胞特異的遺伝子の発現上昇が7ヶ月齢より認められ、造血幹細胞の機能上の変化に先行して遺伝子発現の変化を認めることが示唆された。 転写因子の相互依存関係については、各転写因子を過剰発現させた上で、他の転写因子の発現変化を定量的PCRによって確認した。その結果、Pbx1,Gata2はGata1を介した赤芽球系プログラムを抑制する一方で顆粒球・リンパ球系分化プログラムを駆動していることを示していた。逆にGata2は顆粒球系分化プログラムを抑制する一方、Gata1を介した赤芽球・巨核球系プログラムを駆動していた。加齢に伴って発現が上昇する造血幹細胞の転写因子はいずれも分化と未分化性の両方を制御していることを意味しており、加齢造血幹細胞の自己複製能の亢進は、これら転写因子の分化抑制のバランスの異常によって引き起こされることを示唆している。 これらの遺伝子発現解析に加えて、加齢造血幹細胞のよりよい(造血幹細胞移植に頼らない)機能評価系を確立するために、造血幹細胞をより生体に近い環境で維持する培養法を開発した。本培養法を用いると加齢造血幹細胞は若齢造血幹細胞に比べてより広いダイナミックレンジの環境変化に対して生存しかつ未分化性を維持することが明らかになった。今後は同培養条件下において薬剤探索スクリーニングや遺伝子発現解析を組み合わせ、加齢造血幹細胞の機能解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
1年度目に開発した、造血幹細胞を静止期に誘導する培養条件と、既に同定している加齢造血幹細胞関連マーカーによる加齢評価を組み合わせることで、下記②の薬剤探索のスクリーニングの効率化を図る。また、薬剤のみならず、培養環境の自体の操作による加齢変化のコントロールも試みる。 ① Scl-tTA:H2B-GFPマウスによる細胞分裂履歴が造血幹細胞の加齢形質に影響するかの解析 Scl-tTA:H2B-GFPマウスはドキシサイクリン(Dox)投与によって造血幹細胞が分裂するたびに幹細胞のGFPの蛍光が低下するマウス系統であり、GFP蛍光で造血幹細胞の分裂履歴を評価可能である。1年齢の本マウスにDoxを投与し10週継続したうえで造血幹細胞集団をGFPhigh (分裂回数が少ない、あるいは無し)およびGFPlow(分裂回数が多い)に分ける。それぞれの造血幹細胞集団を単離し、単一細胞cDNAライブラリーを調整し、index付加後scRNA-seqを行う。造血幹細胞の加齢特徴的な遺伝子プログラムが分裂履歴に影響するのか否かを評価する。また、加齢と造血幹細胞の分裂頻度の関係を調べるため、若齢から2年齢に至るまで同マウスをDox投与後継時的に造血幹細胞分画のGFP陽性細胞の割合を解析していく。 ② 造血幹細胞の加齢形質を若返らせる薬剤の探索 赤芽球分化およびリンパ球分化能の回復を最適化するための条件を、Bリンパ球系、骨髄球系、赤芽球系の分化能を同時に評価することのできる胸腺間葉系細胞株TSt-4と造血幹細胞の共培養系を用いて詳細に検討する。また最適化した条件に基づき、造血幹細胞移植後の赤血球分化能およびリンパ球分化能を若齢幹細胞と同程度まで改善することを目標とする。
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