研究課題
造血の恒常性維持に骨髄微小環境が重要であり、中でも血管系の密接な関与が多数報告されている。血管内皮細胞の安定性を維持する転写因子としてKlf2の重要性が知られており、本研究ではTie2プロモーター制御下にKlf2を過剰発現するTie2-Klf2-TGマウスを用いて、Klf2が造血制御に果たす役割について明らかにすることを目的として、研究を行った。Tie2は血管内皮細胞だけでなく、造血幹・前駆細胞でも発現が認められるため、それぞれのKlf2過剰発現の程度を確認した。コラゲナーゼ処理した骨髄細胞から磁気標識ビーズとセルソーターを用いて、CD31陽性の血管内皮細胞と、CD45陽性Lin陰性Sca-1陽性c-kit陽性の造血幹・前駆細胞を分取し、Klf2の発現量をリアルタイムPCRで確認した。この結果、特に内皮細胞においてはマウス個体間のばらつきがかなりみられたが、発現が増加している個体では血管内皮細胞、造血幹・前駆細胞の両方で、野生型と比べると同程度のKlf2発現増加が認められた。野生型マウスとTie2-Klf2-TGマウスの末梢血の血球測定では、赤血球・白血球・血小板の数には変化を認めなかった。骨髄の各Lineageの細胞比率をフローサイトメトリーで解析したところ、Tie2-Klf2-TGマウス骨髄では野生型と比較してB220陽性CD11b陰性のB細胞比率が増加していることを見出した。このため、造血幹細胞レベルからB細胞前駆細胞までの各分画をフローサイトメトリーを用いて野生型とTie2-Klf2-TGマウスで比較したところ、造血幹・前駆細胞分画や共通リンパ球系前駆細胞(CLP)分画には両者で変化が認められなかったが、Tie2-Klf2-TGマウスではPro-B細胞以降のB前駆細胞が野生型と比較して増加していた。
3: やや遅れている
多数のマウス個体を解析していく中で、Tie2-Klf2-TGマウスの血管内皮細胞でのKlf2過剰発現が安定せず、マウス個体によるばらつきが認められることが分かった。このため、Tie2-Klf2-TGマウスの造血系の表現型の解析に当初の想定より時間を要し、当初の研究計画では平成29年度後半に行う予定であった移植実験をまだ行えていない状況である。このような状況を考慮して、研究の進捗はやや遅れていると判断した。
Tie2-Klf2-TGマウスの血管内皮細胞におけるKlf2過剰発現が安定しないため、当初の計画よりやや遅れている状況である。しかし、研究の方向性は当初の研究計画と一致しており、本来は平成29年度に行う予定であった骨髄移植実験を平成30年度に実施するなどの変更はあるものの、基本的には当初の研究計画に則って研究を推進する。血球系血管内皮細胞と血液細胞のそれぞれのKlf2過剰発現が、造血系の表現型にどのように影響しているのかを明らかにするため、Tie2-Klf2-TGマウスと野生型マウスとをドナー/レシピエントとした骨髄移植実験を行い、レシピエントマウスでの造血系の表現型を解析する。解析項目としては、(1) 移植後のキメリズム、末梢血・骨髄・脾臓の各Lineageや造血幹・前駆細胞の比率・絶対数、(2) B前駆細胞や成熟B細胞の比率・絶対数、(3) 造血幹細胞機能の変化、などを計画している。さらに、血管内皮細胞と造血幹・前駆細胞の共培養系を用いて、血管内皮細胞または造血幹・前駆細胞においてKlf2の発現量を変化させたときに、造血系に及ぼす影響とその分子機構について解析する。
【理由】血管内皮細胞におけるTie2-Klf2-TgマウスのKlf2発現が安定しない問題があり、研究の進捗がやや遅れている状況である。このため、当初は平成29年度に行う予定としていた一部の実験を平成30年度に行うこととなり、実験動物、抗体などのフローサイトメトリー関連試薬、培養関連試薬ともに使用量が当初の予定よりも減ったため、次年度への繰越額が生じた。【使用計画】次年度使用額は平成30年度分と合わせ、移植実験に用いる細胞調製やフローサイトメトリー解析のための抗体や実験動物、細胞培養関連試薬の購入に充てる計画である。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 495 ページ: 2338-2343
10.1016/j.bbrc.2017.12.117