研究課題
造血幹細胞・前駆細胞は、骨髄内の微小環境(ニッチ)と呼ばれる特殊な環境に存在し、造血系の恒常性が維持されている。微小環境を構成する造血細胞以外の細胞として、血管系の重要性が多数報告されている。本研究では、血管系の安定性と造血恒常性維持との関係を明らかにするため、血管系の安定性維持に重要な転写因子として知られているKlf2をTie2プロモーター制御下に過剰発現するマウス(Tie2-Klf2-TGマウス)を用いて、Klf2や血管安定化が造血制御に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。前年度の研究により、Tie2-Klf2-Tgマウスでは骨髄内の血管内皮細胞と造血幹・前駆細胞分画のいずれの分画においてもKlf2遺伝子が発現増加していること、末梢血中の血球分画(赤血球・白血球・血小板)数には明らかな変化は認められないが、Klf2の過剰発現によって骨髄中のB220陽性B細胞比率が増加していること、Pro-B細胞以降のB細胞系列前駆細胞が増加していることを見出した。本年度はこの結果を受けて、血管安定化と造血恒常性との関係をさらに解明するため、Tie2のリガンドであり血管安定化作用を有するアンジオポエチン-1 (Ang1) を血管周囲細胞で過剰発現するマウスを用いた造血系の解析も行った。この結果、Ang1過剰発現マウスでは、骨髄細胞数の有意な減少、脾臓の相対的重量の増加傾向といった造血系の変化が認められた。さらに、骨髄細胞のフローサイトメトリー解析では、共通リンパ球系前駆細胞の増加傾向がみられるなど、Tie2-Klf2-Tgマウスと同様にリンパ球系の未分化細胞が増加する結果が得られ、血管安定性制御と造血とは密接に関わっていることが示唆された。
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Cell Reports
巻: 23 ページ: 3223-3235
10.1016/j.celrep.2018.05.042