研究課題
これまでの研究で、関節リウマチ(RA)滑膜細胞において、炎症性サイトカインTNF-αによる時計遺伝子Bmal1発現量の増加は、転写活性因子RORαの増加と転写抑制因 子Reverbαの減少によって起こることを明らかにしている。またこのRORα増加はカルシウムシグナルを介する経路を通り、Reverbαの減少はカルシウムシグナルを介さない経路を通ってBmal1の増加をもたらすことことも見出している。平成29年度の実績として、①TNF-α刺激によりRA滑膜細胞内のp300 mRNA発現量はわずかに増加した一方、p300と協調して作用するCREB-binding protein(Cbp)発現量には変化がなかった。②また、カルシウムキレート剤であるBAPTA-AMを用いて、細胞内カルシウムイオンの流入を阻害した場合、TNF-α刺激によってp300、 CbpともにmRNA発現量が有意に低下した。この結果はBmal1を調節する転写抑制因子Reverbαの結果と同様のものであった。このことは細胞内カルシウムイオン濃度によってp300やCbpのmRNA発現量が調節されていることを示すものである。③次に、RNA干渉によってp300とCbp発現量を共に抑制したRA滑膜細胞を作製し、TNF-α刺激をおこなった。その結果、TNF-α誘導性のBmal1増加が抑制された。またこの時の転写抑制因 子Reverbαの減少と転写活性因子RORαの増加も抑制されていた。④さらに、p300/CBP阻害剤であるC646を前処理した場合においても、③の結果と同様の現象が確認された。すなわち、TNF-αによるBmal1遺伝子の撹乱機構にヒストンアセチル化酵素が関与していることを、RNA干渉や阻害剤を用いた実験系から示すことができたと考える。
2: おおむね順調に進展している
TNF-α刺激による時計遺伝子Bmal1発現増加がどのようにして起こるかという課題に取り組み、そこにはカルシウムシグナルを介した経路と介さない経路が存在すること、またいずれの場合においてもBmal1を増加させるように転写因子が作用していることが明らかになった。また、これらの機構にはヒストンアセチル化酵素が関与していた。当初予想された結果とはやや異なる結果が得られたが、その本質は変わらず、TNF-αが時計遺伝子を撹乱する機構を初代培養系滑膜細胞において明らかにすることができた。したがって当該年度は順調に計画を達成できていると考える。
29年度の得られた結果は、当初の予想に反し、TNF-αのBmal1増加のルートにヒストンアセチル化酵素p300のみならず、p300と協調して作用するCBPも必要であることが示された。したがって当初予定していたp300に焦点を当てるだけでなくCBPへの作用を同時に評価する。具体的には、TNF-αによるCBP/p300結合DNA量に及ぼす影響の検討(ゲルシフトアッセイ)、TNF-αによるRORα, Reverb α プロモーター領域のヒストンアセチル化に及ぼす影響の検討(クロマチン免疫沈降法 )、 TNF-αによるRORα/ Reverb α 遺伝子プロモーター活性に及ぼす影響の検討(ルシフェラーゼアッセイ)を行う予定である。加えて、31年度に予定している 生物学的製剤;TNF-α阻害剤による治療前後における時計遺伝子、ヒストンアセチル化酵素発現に及ぼす 影響の検討 を行うための患者選定と検体採取を順次遂行していく予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 495 ページ: 1675-1680
10.1016/j.bbrc.2017.12.015.