研究課題/領域番号 |
17K16207
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉田 幸祐 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (80452499)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 関節リウマチ / 時計遺伝子 / ヒストンアセチル化酵素 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、関節リウマチ(RA)滑膜細胞において、炎症性サイトカインTNF-αによる時計遺伝子Bmal1発現のかく乱機構に、ヒストンアセチル化酵素 p300/CBPが関与していることを明らかにした。 平成30年度の実績として、RNA干渉実験から、①Bmal1は細胞周期調節因子サイクリンE1のactivatorとして機能することを明らかにした、②しかしBmal1遺伝子を発現抑制しただけでは、TNF誘導性のサイクリンE1遺伝子発現増加をキャンセルすることはできなかった。③実際、Bmal1を抑制した細胞では、TNFαによる細胞増殖へは影響しなかった。上記①-③により、TNFαによる細胞増殖誘導はBmal1を介さず、別の経路で起こっている、あるいはBmal1遺伝子単独を発現抑制するだけでは不十分な可能性が考えられた。 一方、Bmal1と同様にROREを有する、あるいは有する可能性が示唆される分子で、かつRAの病態形成に深く関わる分子として、細胞遊走に関与するケモカインCCL2、サイトカインIL6、軟骨破壊に関与するMMP3にも着目した。これらの分子においても、④Bmal1と同様にp300/ CBPをsiRNAや阻害剤を用いて抑制すると、TNFαによる発現誘導が抑制されていた。⑤特にCCL2については、RORα阻害剤とReverbα誘導剤の共投与によっても、TNFαによる誘導を抑制することができた。⑥さらに、p300/CBP阻害剤で前処理後にTNFα刺激した上清(この上清は上記ケモカインが抑制されている)は、DMSOで前処理後にTNFα刺激した上清(対照群)と比較して、RA滑膜細胞の遊走を誘導することができなかった。 ⑦また、生物学的製剤投与前後の時計遺伝子発現を比較した結果、一部の時計遺伝子群は疾患活動性と相関していた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの結果により、TNF-αが時計遺伝子を撹乱する機構を初代培養系滑膜細胞に おいて明らかにすることができた。今年度は当初予定していた、CBP/p300結合DNA量に及 ぼす影響の検討(ゲルシフトアッセイ)、TNF-αによるRORα, Reverb α プロモーター領域のヒストンアセチル化に及ぼす影響の検討(クロマチン免疫沈降法 )、 TNF-αによるRORα/ Reverb α 遺伝子プロモーター活性に及ぼす影響の検討(ルシフェラーゼアッセイ)について実験系の確立に時間がかかり実現できていない。一方でBmal1を標的にして、滑膜細胞の増殖機構を抑制できるか検討したが、予想に反してBmal1単独ではTNFαによる細胞増殖誘導を抑制できなかった。一方、Bmal1と同様にROREを有するケモカインCCL2等は、これまでBmal1に行ってきた結果と同様の現象が見られた。このCCL2等による遊走作用は、ヒストンアセチル化酵素p300/CBPの阻害によって抑制できることが確認できた。したがって、Bmal1を介したRA滑膜細胞の増殖機構については研究途上のところがあるが、その一方で遊走や軟骨破壊に対してはヒストンアセチル化酵素からROREを介した調節機構が明らかになりつつあり、新たな研究の進展がみられている。加えて、当初平成31年度に予定していた生物学的製剤の投与前後の時計遺伝子の変化も解析が進んでいる。これらの結果の一部は学会発表や論文として成果報告することができており、総じて考えると概ね順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
①2018年度に実験系を確立できなかった検討を実施する。②ヒストンアセチル化酵素阻害剤C646を用いた実験により、TNFα誘導性CCL2を抑制することができたため、今後はC646がCCL2の機能、すなわち細胞遊走能や増殖に与える影響を検討する。③生物学的製剤の投与前後による時計遺伝子群の発現解析は順調に進んでおり、これらに加えてヒストンアセチル化酵素の発現解析を行う。④in vivo実験として、関節炎モデルマウスを作成し、C646の治療効果を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入による端数のため、次年度計画を遂行することに使用する。
|