本研究は、日本由来のT. pallidumのゲノム解析と、識別能の高い系統解析が可能となるMLST法の確立による分子疫学研究である。MLST法は数種類のハウスキーピング遺伝子と呼ばれる同種で変異の少ない遺伝子の相同性を調べる方法であり、ある集団内で伝播してる病原菌の分子系統解析に用いられているが、梅毒は培養ができないため、実際の患者の組織から直接、DNAを抽出する必要がある。今年度は、当施設において、これまで収集した検体をもとに、DNAを抽出を行い、ゲノム解析をおこなった。2016年1月~2018月12月までに同意をもとに得られた、梅毒RPR陽性者の血液47検体と、一期梅毒の病変部のスワブ7検体の解析を行った。 Treponema.pallidum(T.pallidum)が試験官内で培養できないことが、分子疫学研究を困難にしていた。本研究も患者検体もメタゲノム解析であるため、解析に必要なDNAの抽出は困難であったが、最終的にMLST解析に必要な配列を13クローンから得ることができた。これまで、世界に分布している2種類の梅毒とされる、Nichols型と、SS14型にわけると、それぞれ、6種類、7種類あった。また、マクロライド系抗菌薬に対する薬剤耐性変異は、Nichols型で3例、SS14で3例認めた。また、SS14型はマクロライド耐性が多く、近年の世界的な梅毒流行の主要な株であると考えられていたが、本研究とは一致しなかった。今回の対象は、当院に通院する、男性間性交渉により感染したHIV患者であるが、日本の男性同性愛者で流行していた梅毒は複数の株があることが推測された。
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