本研究は、ワンヘルスアプローチ概念に基づき、ヒト・家畜・食品・環境における薬剤耐性菌の分布状況とその関連性を明らかにし、薬剤耐性菌の制御と蔓延防止策を構築することを目的とした。3年間でヒト(健常人、患者)・家畜(牛・豚)・食品(野菜)・環境(野生動物として鹿)を中心に検体を収集し、それぞれから第3世代セフェム系薬耐性菌を分離した。いずれも共通した耐性遺伝子としてCTX-M β-ラクタマーゼをプラスミド上に保有していたが、ゲノム型やプラスミド型などの特徴が大きく異なっていたため、第3世代セフェム系薬耐性菌においてはヒト・家畜・食品・環境に関連性は認められなかった。これは、日本の耐性菌分布状況について新しい知見である。ただし、野菜から分離された第3世代セフェム系薬耐性菌が少なかったこと、鹿検体数が少なかったことから、引き続き検討が必要である。一方で、家畜(牛・豚)とその飼育者からコリスチン耐性菌を分離した。いずれも共通したmcr-1耐性遺伝子をプラスミド上に保有し、一部はゲノム型やプラスミド型が同じであったため、コリスチン耐性菌は家畜と飼育者などの濃厚な環境にある場合、ヒトと家畜で関連性が認められた。 また、ヒト患者検体において、アミノグリコシド耐性遺伝子とホスホマイシン耐性遺伝子を同時に保有するCTX-M-55産生大腸菌やクラスA型β-ラクタマーゼであるSed-1を産生するCitrobacter sedlakiiなど、日本において報告例のない珍しい耐性菌を分離し、その性状解析を行った。さらに、本邦の臨床現場で問題となっているカルバペネム系薬耐性菌について、本邦で分離頻度が高いカルバペネマーゼIMP-1とIMP-6の分別ができるARMS-PCR法を開発した。簡便かつ迅速に識別することができるようになり、臨床現場や疫学解析において活用されることが期待される。
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