先天性大脳白質形成不全症の中で最も頻度の高いPelizaeus-Merzbacher病(PMD)は、PLP1遺伝子変異により発症する難治性の疾患であり、未だに有効な治療法はない。PLP1遺伝子点変異は、小胞体ストレスにより、オリゴデンドロサイトのアポトーシスを生じることから、PMDの中でも最重症型をきたすことが知られている。我々は、過去の研究から見出した小胞体ストレスを改善させる可能性のある食品由来の15種類の化合物を用いて、PMD治療薬の簡便なスクリーニング法の開発を目指し、PMDの病態をin vitroで再現できるPLP1遺伝子変異を導入したオリゴデンドロサイトの初代培養系を確立することを目指したが、安定的なスクリーニングを行うことが困難であった。そこで、PLP1遺伝子の機能喪失変異に由来するPMDの軽症型の培養モデルの作成を目指し、末梢神経の髄鞘化培養モデルにおいてレンチウイルスによるPLP1遺伝子のノックダウンを行ったところ、末梢神経の髄鞘化か遅延し、末梢神経障害を呈するPMD軽症型の培養モデルを安定的に作成することが可能となった。このPLP1遺伝子の機能喪失変異に伴うPMDの病態は未だ解明されていない部分が多いことから、病態解析のための形態学的観察などを行い、さらに治療法を目指す研究としては、髄鞘化を促進する薬剤を網羅的にスクリーニングすることを行うこととした。現在、市販されているFDAで認可されている160種類の薬剤スクリーニング試薬を、末梢神経の髄鞘化培養モデルに添加して、髄鞘化を促進する薬剤のスクリーニングを施行中である。今後は、これらの薬剤で誘導された髄鞘化の状況を形態学的、生化学的に詳細に検討することなどが必要である。
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