研究課題/領域番号 |
17K16251
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 格 京都大学, 医学研究科, 助教 (10610454)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 白血病 / 中枢神経浸潤 / 微小環境 |
研究実績の概要 |
中枢神経浸潤白血病を標的とした特異的治療ターゲットに対する新規治療法の開発を目的としていたが、前年度において小児中枢神経浸潤白血病細胞が低酸素領域に存在する特徴を標的とする戦略をたて小児固形腫瘍や成人脳腫瘍での臨床使用実績のあるVEGFAが新規治療薬として有効である事を誌上発表した。今年度は遺伝子改変などの操作が簡便なcell lineを用いた中枢神経モデルの構築について報告する。REH、SUSR、NALM6、KOPN8、RCHなどのB lineage ALLのcell lineを免疫不全マウスに移植し移植後3週間以上経過したマウスの中枢神経浸潤の有無の評価を行なった。Cell lineによって中枢神経指向性は異なり、例えばRCHは肝臓浸潤が激しいため肝腫大にて致死的転帰をたどる事が多く、TOM1は中枢神経浸潤をほぼ認めなかった。NALM6、REH、SUSRは中枢神経浸潤を認め、REHに関しては中枢神経浸潤した白血病細胞の細胞周期が骨髄浸潤白血病細胞と比較して静止期に陥っているなど、患者検体で示した細胞性質を再現している事が判明した。さらにはREH細胞は患者検体で治療標的としたVEGFAの発現がCNSにて上昇している事を確認した。SUSRは予後不良で中枢神経浸潤のリスクファクターであるBCR-ABL融合遺伝子を有するcell lineであるが、SUSRでもマウスモデルにおいて中枢神経浸潤を再現している事が確認できた。さらには、IVISシステムにてluciferinによる可視化が可能であるluciferaseをSUSRに遺伝子導入し、経時的にマウスをsacrificeする事無く中枢神経浸潤を可視化する事が可能なシステムを構築した。当Luc導入SUSRを使用してCART細胞を用いた中枢神経浸潤白血病に対する新規治療戦略を構築中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の予定通り、免疫不全マウスモデルとcell lineを用いて中枢神経浸潤を再現性良く観察可能なcell lineを同定し、IVISシステムを用いて経時的にマウスをsacrificeする事無く中枢神経浸潤を可視化する事が可能なシステムを構築する事が出来た。当システムを用いて現在臨床で非常に大きな治療効果を示しているCART細胞を用いた白血病中枢神経浸潤に対する新たな治療戦略を検討中であり、これは2018年度の第60回アメリカ血液学会にて発表を行なう事が出来た。 臨床的にもPhALL中枢神経白血病症例に対する緩和的照射術の効果について第60回日本小児血液がん学会学術集会(京都)にて学会発表を行なった(緩和的全脳全脊髄照射が 長期的有効性を示した難治性中枢神経浸潤 急性リンパ性白血病小児症例)。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで構築したシステムを用いて、今年度以降は以下の研究を推進していく予定である。 1.今年度構築した経時的にマウスをsacrificeする事無く中枢神経浸潤を可視化する事が可能なLuc-cell lineシステムを用いて、CART細胞療法を用いた中枢神経浸潤白血病に対する新規治療戦略の提示を目指す。 具体的には中枢神経浸潤マウスモデルを用いて、CART細胞療法の、中枢神経浸潤白血病細胞に対する効果・安全性の検討を継続する。これまでの研究結果からは中枢神経白血病細胞は骨髄白血病細胞とは存在する微小環境に大きな差があり、酸素や糖分、蛋白などが相対的に低下した微小環状に存在する事が示せており、その様な中枢神経の微小環境でもCART細胞が白血病細胞に対して殺細胞性効果を発揮できるか、さらには最もCART細胞の投与経路で効果的なものを同定する。 2.微小環境の異なる中枢神経で作用するCART細胞が代謝的、遺伝子発現的に骨髄で働くCART細胞と異なるか、比較検討を行なう。また、免疫環境との相互作用についても検討する。 3.上記知見を元に、CART細胞療法のような免疫療法を用いて低酸素領域に存在する中枢神経白血病、特に予後不良であるT細胞性急性リンパ性白血病の中枢神経浸潤、そして難治性再発性白血病を標的とした新たな治療戦略を探索する。
|