研究課題
Pompe病はライソゾーム酵素である酸性αーグルコシダーゼ(GAA)が先天的に欠損することで、全身の組織、特に骨格筋、心筋、肝臓にグリコーゲンが蓄積するライソゾーム病の一つであるが、臓器によって酵素補充治療への反応性が異なることが臨床上問題となっている。本研究では重症型である乳児型Pompe病患者由来iPS細胞を複数の組織系に誘導し、病態の違いを解明し、新たな治療アプローチを確立することを目的とする。昨年度は患者iPS細胞から骨格筋細胞を誘導し、現在唯一の治療法である酵素補充療法の効果判定に用いることが可能なモデルを確立することに成功した。今年度は心筋細胞と肝細胞への分化誘導法の最適化を中心に取り組んだ。まず、浮遊培養を介した心筋細胞への誘導を行ったが、クローン間の分化効率のばらつきが著明であったため、疾患表現型の再現は困難であった。引き続き、誘導法の最適化、または、接着培養などの他の誘導法を検討する。次に、肝細胞への誘導に関しては高効率に分化が得られたので、筋細胞分化に用いた12クローン(3患者および3健常者からそれぞれ2クローンずつ)で実験を行った。iPS細胞から誘導した肝細胞において、肝細胞マーカーの発現をqPCRおよび免疫染色で確認した。さらに、患者iPS細胞由来肝細胞において、ライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積していることを、PAS染色、免疫染色、電子顕微鏡観察により明らかにした。これらのことから乳児型Pompe病の肝臓モデルの確立に成功したと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
複数臓器モデルを確立する目的に対して、すでに骨格筋と肝臓のモデルの確立に成功したことから、おおむね順調に進展していると判断した。
確立した肝臓モデルが現在の治療薬の効果判定に使えるかどうかを評価する。同時に心臓、神経といった他臓器への分化誘導を検討する。さらに、余裕があれば、骨格筋において同定したmTOR経路の変化についても研究を進める。
心筋分化誘導が困難であり、誘導後に行う予定であった実験費用が発生しなかったため次年度使用額が生じた。次年度使用額は物品の購入費として充当する予定である。
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