研究実績の概要 |
Pompe病はライソゾーム酵素である酸性α-グルコシダーゼ(GAA)が先天的に欠損することで、全身の組織にグリコーゲンが蓄積するライソゾーム蓄積病の一つであるが、臓器によって酵素補充治療への反応性が異なることが臨床上の問題点となっている。本研究では重症型である乳児型Pompe病患者由来iPS細胞を複数の組織系に誘導し、病態の違いを解明し、新たな治療アプローチを確立することを目的とする。昨年度までに、乳児型Pompe病患者3人と健常者3人から樹立したiPS細胞を用いて治療効果判定に有用な骨格筋モデルを確立することができた。 最終年度は、骨格筋モデルに使用したiPS細胞を用いて、肝細胞分化誘導を行った。誘導した肝細胞において肝細胞マーカーが発現していることを確認した。アルブミン免疫染色による定量評価では、1ラインを除いて60%以上の分化誘導効率であった。患者由来iPS細胞から誘導した肝細胞ではライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積していることを、Periodic acid-Schiff(PAS)染色、免疫染色、電子顕微鏡観察により示した。さらに、蓄積したグリコーゲンが酵素補充療法により改善することを確認し、骨格筋モデル同様に治療効果判定に有用な肝臓モデルを確立することができ、論文として報告した(Yoshida T, et al. Front Cell Dev Biol. 2019 Nov 29;7:316)。 以上のことから、乳児型Pompe病患者iPS細胞を用いて、治療効果判定や病態解明に用いることができる複数臓器モデルを樹立することに成功した。
|