過去には急性脳症モデル動物作成の試みが報告されているが、技術的問題やヒトの症状との類似性の問題から汎用されていない。我々は、幼若動物への低用量Lipopolysaccharide(LPS)投与と温熱処置(HT)による炎症性サイトカイン産生、および痙攣を誘発することで、特に予後不良とされるサイトカインストームを主な病態とする急性脳症モデル動物を作出し、モデル動物としての妥当性を検討した。 本研究では、幼若マウスに大腸菌由来LPSを腹腔内投与し、加温することで痙攣を誘発した。脳組織の血管原生浮腫、血液脳関門(BBB)破綻と神経細胞死の検証のため、加温後にFITC(蛍光色素)を使用して灌流固定を行った。コントロール(CTL)、HT only、LPS100μg/kg only、LPS50μg/kg + HT、 LPS100μg/kg + HT(LPS100 + HT)の5群に分け、脳組織の検討を行った結果、LPS100 + HT群の大脳皮質におけるBBB破綻を示唆するFITC陽性領域は、CTL群に比して有意に増加していた。LPS100 + HT群の皮質では、Iba1陽性ミクログリアにおいて典型的な活性化状態の形態を示した。また、GFAP陽性アストロサイトも典型的な反応性アストロサイトの形態を示し、一部のアストロサイトにおいて突起破壊(clasmatodendrosis)を示していた。突起破壊を示すアストロサイトに関しては、ミクログリアによる貪食を示唆する像がみられ、さらに、主に大脳皮質において、境界明瞭な虚血と考えられるFITC不染の領域が散見された。これらの組織所見は、ANEやHSESで報告されているヒトの脳組織所見に類似した所見であった。本モデル動物は比較的簡便に作成でき、急性脳症の病態解明と治療法の開発につなげたい。
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