2015年に全国で小児急性弛緩性麻痺患者が報告され、同時期に流行のあったエンテロウイルスD68が原因と推測されている。流行の発生時期や地域、同一患者での感染症前駆症状から麻痺の出現と気道からのウイルス検出の時間的一致などが大きな根拠となっていた。一方で、症状のある中枢神経系でウイルスがほとんど検出されないことや傷害組織の病理学的データが少ないこと、細胞レベル及び個体レベルでの科学的根拠に乏しいことが問題点だった。その後、最近1-2年でエンテロウイルスD68の侵入に必要な神経細胞の受容体が発見され、急性弛緩性脊髄炎モデルマウス作成の成功が報告された。しかし、これらはヒトにおける感染経路を十分説明できるかどうか明らかでない。また、同一ウイルスでなぜ呼吸器症状のみの患者と急性弛緩性麻痺を来す患者に分かれるのかなど臨床的疑問は解決できておらず、治療法や予防法は未だ確立していない。 本研究では、研究協力施設に依頼し、山口県で2015年に発生したエンテロウイルスD68感染症患者からウイルスの分離に成功した。実験室内では気道上皮細胞、神経細胞、グリア細胞等で、エンテロウイルスD68感染に必要となる受容体が認められるか、感染が成立するかを確認中である。また、急性弛緩性脊髄炎モデルマウス作成の準備を進めている。臨床研究として、神経移植術を行った急性弛緩性麻痺患者のデータ収集や組織学的検討について準備を進めている。
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