多発性嚢胞腎 (PKD) の病態として、Gαが介するシグナル伝達がこれまで注目されてきた。例えば、バソプレシン受容体などのGタンパク受容体 (G protein coupled receptor: GPCR) 刺激によるGα活性、cAMPの上昇、に関連した報告は多い。一方、Gβγ subunit もシグナル伝達に関わると言われているが、PKD での報告は少ない。TRIP13 は、Gβγ に結合するアクセサリータンパクとして注目されており、PKD での役割について検討した。 Gタンパクは、Gα と Gβγ に分かれる。細胞質で分離した Gβγ は TRIP13 と結合し、核に移動してシグナルを伝える。これを評価するために、前年から引き続き、PKD モデルマウスと同齢対照マウスの腎からタンパクを抽出し、細胞質成分と核成分とに分けることを続け、成功した。 第一に、TRIP13、および、Gβ の分布を、ウェスタンブロッティング (WB) を用いて評価した。その結果、TRIP13 は、PKD モデルマウスと同齢対照マウスともに、細胞質と核で発現していたが、核でより有意に発現していた。 次に、腎の細胞質で Gβγ と結合した TRIP13 が存在しているかを評価するために、細胞質タンパクをTRIP13 抗体で免疫沈降し、Gβ 抗体を用いて WB で評価する共免疫沈降を行った。その結果、PKD モデルマウスの腎の細胞質成分において、Gβ の発現が低下していた。 最後に、TRIP13 抗体を用いて、腎組織を染色した。その結果、TRIP13 は、PKD モデルマウスで核に強く発現していたが、対照マウスでは細胞全体に発現していた。 これらのことから、「TRIP13 が Gβγ に直接結合することでシグナルを伝達する GPCR 非依存性経路」が正常より PKD モデルで減弱していると判明した。
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