研究課題
尿素サイクル異常症は、高アンモニア血症を来たすことが多いが、発作はしばしば飢餓や異化と関連している。しかし、その分子的基盤は十分に理解されていない。このような飢餓に伴う高アンモニア血症のメカニズムを解明し、新たな治療法を開発することを目的として研究を行った。まず、マウス胚性線維芽細胞培養系を用い、グルコース飢餓がアンモニア産生を増加させること、この増加はグルタミン分解の亢進に関連していることを見いだした。グルタミナーゼとグルタミン酸脱水素酵素(GLUD)を介したフラックスは、それぞれアンモニア生成量の60.0%と40.0%に寄与していた。これらの結果から、我々はグルタミノリシスを抑制し、かつアナプレローシスを確保する物質としてα-ケトグルタル酸(AKG)に着目した。そこで、AKGの膜透過性アナログであるジメチルα-ケトグルタル酸(DKG)がアンモニア生成に及ぼす影響を調べた。その結果、DKGはグルコース充足および飢餓の両方の条件下で、主にGLUDを介したフラックスを減少させ、アンモニア生成を抑制することを見出した。さらに、この抑制効果をin vivoで検証した。NH4Clを負荷した高アンモニア血症モデルマウスでDKGの効果を検証したところ、DKGの投与により血漿中のアンモニア濃度が著明に低下することが確認された。また、遺伝子操作によるオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の新生牡ブタにDKGを静脈内投与したところ、血中アンモニア濃度が経時的に有意に低下することが確認された。以上の結果から、エネルギー飢餓がグルタミン分解の亢進を通じて高アンモニア血症を誘発すること、そしてDKGがin vitroのみならずin vivoでもアンモニア蓄積を抑制することを示した。AKG の細胞透過性形態は、新規の高アンモニア血症治療薬の候補となり得ることを示し、今後の治療への足掛かりを得た。
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