研究実績の概要 |
我々は,ヒト胎盤循環を模したポンプレス人工胎盤システムを,ヒツジ胎仔を用いた動物実験で開発した.このシステムを臨床応用すれば,現行の保育器で育てる新生児医療を人工子宮で育てる新生児医療へと転換させ,成育限界児の後遺症なき生存を可能にするかもしれない.一方で感染抵抗力が弱い成育限界期のヒツジ胎仔は人工羊水内で増殖した微生物による菌血症や敗血症に陥りやすいことが指摘された. そこで本研究期間には,微生物の増殖による感染症を予防するために人工羊水の浄化システムを確立する.具体的には,(1) 羊水量を減少させ,(2) 物理的濾過フィルターを強化し,(2) 最も効率のよい濾過流量に設定すれば,成育限界期のヒツジ胎仔であっても,人工羊水内での微生物の増殖や感染症を予防できることを証明する. 平成29年度は人工羊水量を減らし (羊水量10L),0.2μmの細菌濾過フィルターと紫外線照射装置を併用した羊水循環浄化装置を使用したが,羊水培養からはグラム陰性桿菌が検出され,さらに敗血症を発症した. 平成30年度には比較的成熟した妊娠135-138日のヒツジ胎仔に人工胎盤を装着した.6時間毎に人工羊水の入れ替えを行い,羊水感染症を防ぐことが可能かを検証した.人工羊水中で9日間の養育が可能であった3例において検討を行った.216時間における羊水培養では,2例でEnterococcus faeciumを,1例でCandida albicansを同定した.しかし敗血症の発症はなかった. 令和元年度にはさらに未熟なヒツジ胎仔5例 (妊娠103日, 体重1,203 ± 98 g, 平均 ± SD) に人工胎盤を装着し,6時間毎の人工羊水の入れ替えを行った.120時間における羊水培養では,2例でStenotropho. maltophiliaが同定された.しかし敗血症の発症はなかった.
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