研究課題
新生児慢性肺疾患(Chronic Lung Disease、以下CLD)は、生後28日以降の酸素依存性により診断され、超低出生体重児の61.2%と高率に発症する。CLDは低酸素血症により脳性麻痺など神経学的発達に影響し、長期予後不良とされる難治性疾患である。CLDは早産児の未熟な肺に子宮内感染・炎症、生後の長期人工呼吸器管理による圧損傷・酸素毒性、肺の発達因子の欠乏など多くの因子が加わって発症する疾患である。CLDに対する治療は従来、抗炎症作用のステロイド治療、早期抜管による物理的障害の軽減など発症因子への単独的治療が主流であり、十分な効果が得られていない。現在、CLDに対する抜本的治療の開発は、超低出生体重児の生存率が向上した日本の新生児医療において最重要課題といえる。間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell、以下MSC)は、障害組織への遊走、抗炎症、抗酸化等の包括的作用を示すことから、CLDに対する有効な治療として期待されている。我々は、MSC の細胞集団全体の約1%存在する、Multilineagedifferentiating Stress Enduring Cell(以下、Muse 細胞)のより幹細胞性の高さ、生着能の高さに着目し、臍帯から単離したMSCからSSEA-3+/CD105+ 細胞としてMuse 細胞を単離・同定し、CLDモデルラットに対する治療効果を比較検討し、CLDに対する有効な治療法の開発を目的とした。昨年度は、CLDモデルとしてブレオマイシン誘発性肺障害モデルを確立し、本年度は組織学的スコアリングの新たな構築とさらにCLDモデルラットへの臍帯由来Muse細胞投与を行い、効果を評価した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、CLDに対する新治療法の開発を目的としている。これまでにブレオマイシン誘発性肺障害モデルを確立し、臍帯由来MSCの投与を行い、体重増加、組織学的スコアリングにおいて、効果があることを示した。さらにブレオマイシン誘発性肺障害モデルへの臍帯由来Muse細胞投与実験を行い、またGFPラベルしたMuse細胞、nonMuse細胞を用いて、Muse細胞の生着能を評価した。概ね期待通りに進行している。
今後は、臍帯由来MSCと臍帯由来Muse細胞を用いてブレオマイシン誘発性肺障害モデルに対する治療効果の比較検討を行う。またMSC,Muse細胞へGreen Fluorescent Protein(GFP)ラベルを行い、細胞投与後の肺組織を含めた臓器への生着を評価する。結果をまとめ次第、学会、論文への発表をしていく予定としている。
(理由)昨年度は、一般試薬および培養試薬の使用料が当初の計画よりも若干下回ってしまった。(使用計画)今年度は、臍帯由来MSC、Muse細胞の治療効果について結果を収集し、論文発表などに全力を注ぐ予定である。
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J Vis Exp
巻: 143 ページ: 1-1
10.3791/58806