本研究は、周産期低酸素虚血性白質障害(DWMI)モデルに対し、①豊かな環境飼育(EE)が運動機能障害を改善するか、②電気生理学的に神経シナプス機能を改善するか、③分子メカニズムとしてIGF-2 等の神経栄養因子が関与するか、を検討することを目的とし、これまでに、DWMIモデルラットをEEで生後25日から5週間飼育すると、生後35日からオープンフィールド、棒上歩行、シリンダー試験等の運動機能が改善すること、経時的に皮質内微小電気刺激(ICMS)を行い、皮質マップ変化が正常化すること、脳の形態的変化が正常群と同程度までに回復していること、等を明らかにした。 2019年度は、これら結果をもとに論文作成を視野に入れ、ゴルジ染色を用いて大脳皮質第II/III層の樹状突起の形態変化についての詳細な解析を行った。その結果、DWMI後の発育期のEEによって、ゴルジ染色のScholl解析のパターンが正常化することが明らかになった。すなわち、DWMIモデルでは複雑化し樹状突起の刈り込みが不十分であったが、EEによって樹状突起の刈り込みが正常に生じ、樹状突起の正常化が見られた。また、DWMIでの低酸素虚血によって減少しているPDGFR-α陽性のオリゴデンドロサイト前駆細胞がEEにより増加させ、この増加がランビエ絞輪間の距離の減少をもたらしていることを明らかした。以上により、DWMIモデルにおけるEEによる機能改善のメカニズムの一端が明らかにした。
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