研究課題/領域番号 |
17K16308
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤村 公乃 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (80445395)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アストロサイト / 胎内曝露 / バルプロ酸ナトリウム / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
遺伝子配列に依存しないエピジェネティックな遺伝子発現調節機構の異常が、中枢神経発生異常をきたす病態メカニズムとして注目されている。我々はこれらのうち、特にヒストンアセチル化に着目して研究を続け、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬・抗てんかん薬であるバルプロ酸ナトリウム(VPA)への胎内曝露がマウスにおいて神経系前駆細胞の細胞分裂動態を障害し、大脳皮質内神経細胞数を増加させることで皮質形成異常を生じることを報告した。本研究では、近年種々の機能が明らかとなっているアストロサイトに着目し、ヒストン脱アセチル化機構の異常がアストロサイトの増殖/分化誘導機構や産生数に与える影響を解明することを目的とする。
我々は妊娠1日から仔の出生まで0.4% VPA水溶液または蒸留水を飲水として妊娠CD-1マウスに与え、母体のVPA血中濃度をマウスにおける抗けいれん薬としての有効血中濃度以下に維持した。生後仔マウスについては大脳皮質一次体性感覚野、胎仔については背内側大脳壁において、厚さ4 μmの冠状断切片を作成、蛍光免疫組織染色法により染色し、定量解析を行なった。
生後21日において、VPA曝露群では対照群と比較してS100β陽性アストロサイト数が18%増加した。このことから、VPA胎内曝露がアストロサイト産生数を増加させることが示唆された。そこで、胎仔期のアストロサイト産生母地であるsecondary proliferative population (SPP)について、アストロサイト産生時期の初期にあたる胎生16日において、その数を解析した。VPA曝露群では対照群と比較して、SPP数が同等であり、SPPのうちSox2陽性である細胞の割合も60%程度と同等であった。以上より、VPA胎内曝露はアストロサイト産生の初期には産生数を増加させないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、当初の計画では翌年度に行う予定であった実験を前倒しして実施した。これは、VPA胎内曝露がアストロサイト産生に与える影響を解明するためには、成体における表現型を研究初期段階で確認することが重要であると考えたためである。結果的に、VPA胎内曝露がアストロサイト産生数を増加させることが確認され、VPAがアストロサイト産生に影響を及ぼす時期の同定について解析を進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果をさらに追求するため、以下の解析を行う。 1. VPAがアストロサイト産生に影響を及ぼす時期の同定 胎生17日以降のSPPについて数や分布を解析する他、S期マーカーであるBrdUを妊娠マウスに投与することで、各胎生日に産生されるアストロサイトの生後大脳皮質における数と分布を解析する。 2. VPAがアストロサイトの形態成熟に与える影響 ゴルジ染色法を用いて生後早期から成体に至るまでのアストロサイトの形態を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施した研究ではすでに当研究室に備わっている物品を使用することが可能であったため、当該額を翌年度の研究において使用する予定である。具体的には、アストロサイトを同定するための抗体などの試薬購入に使用する。
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