研究課題/領域番号 |
17K16313
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中村 彰宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特別研究員(PD) (50750973)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カルシウムセンサータンパク質 / 水頭症 / 神経発生 / 繊毛 / アストロサイト / 脳 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績としては本研究に用いる遺伝子欠損マウスが部位特異的な神経系への異常が示唆され、当初繊毛異常のみに着目していたが、繊毛の異常あるいは繊毛の運動制御に関連すると考えていたタンパク質が脳組織、神経形成にも何らかの影響を与えている可能性が浮上してきた。特に現段階で有力と考えられるのは、当該タンパク質が細胞・組織外からの栄養因子またはカルシウムシグナルなどを伝達し、神経の発生、維持に関与しているという仮説である。この仮説を証明するため胎仔や新生仔の解析を行い、少なくとも胎生期には成獣に認められるような形態的、タンパク質レベルで大きな差は認められないことが明らかになった。また、成獣において脳組織の免疫組織染色を行なった結果、神経細胞のマーカータンパク質であるNeuNやMAP2や、グリア(アストロサイト )細胞のマーカータンパク質であるGFAPが減少していることもわかった。このことに関し、これらのタンパク質の減少が海馬周辺の大脳皮質では認められず、脳組織吻側(前交連上部)の大脳皮質でのみ認められた。 また本年度は当該遺伝子欠損マウスから細胞を取得し、不死化細胞の作成、多能性幹細胞(iPSおよびES)細胞の樹立を試みた。これらの実験は申請者自身経験がなく、初めての試みだったこともあり不死化細胞の樹立およびES細胞の作成は達成することができなかった。ただし、iPS細胞は樹立することができた。この細胞を用い、神経細胞やグリア細胞といった脳組織を構成する細胞への分化誘導を試み、in vivoで観察されるような細胞の減少を確認したいと考えている。これによりin vitroの実験系を樹立し分子レベルでのメカニズムの解明につなげる狙いである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は(1)脳室内繊毛の運動時期の解明と(2)繊毛の運動制御の解明を計画していた。まず、(1)の課題については研究協力者のサポートもあり繊毛の有無、形態、長さについて解析をすることができた。その結果、成獣においては野生型と遺伝子欠損個体の間に有意な差は認められなかった。ただし、計画では実施するはずだった新生仔期の脳室内繊毛については成獣において繊毛に形態的にも運動性にも異常が認められないことから、異常はないことが予想されたため実施しなかった。繊毛運動の詳細な解析および評価については運動性は確認したものの、数値化できるほどの詳細な解析は行えなかった。これは撮影条件や摘出した組織の培養条件の検討などに時間がかかってしまったためである。このデータは遺伝子欠損個体の繊毛に異常がないことを証明するためにも必要なデータであることから最終年度である平成31年度に完成させる必要がある。 次に(2)の繊毛の運動制御の解明の課題については、野生型個体、遺伝子欠損個体から細胞を採取し不死化細胞と人工多能性幹細胞(iPS: induced pluripotent stem cells)の作成を試みた。その結果、iPS細胞を作成することができた。計画よりも早く作成することができたので、神経細胞への分化誘導実験を前倒しして進めている。また初年度である平成29年度に計画していたコンピュータ断層撮影(CT)を用いた脳室拡大時期の特定は機器の性能上、新生仔には対応することができなく、切片標本から脳組織と脳室の比率を算出することで実施した。しかし平成30年度に他組織との研究協力により高分解能の装置と染色方法を組み合わせることにより詳細な画像を取得することができたため、この方法を新生仔に適用し3次元的な脳室の容積を算出するとともに組織の比較を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まずはCTによる新生仔期の脳室容積の画像を取得し、野生型と遺伝子欠損型を比較することで拡大の時期を特定する。このことはこれまでの水頭症モデルマウスとの比較にも重要なデータであり、当該マウスの有意性を示す上でも重要である。すでにこれまでの当該マウスの解析の結果から、これまでの水頭症モデルマウスとは異なることが明らかであり、ヒト疾患および脳形成についての新たな知見が得られるものと考えている。 次に2年目の実施項目として計画していたが、実施することのできなかった繊毛運動の解析を実施する。これまでに装置、機器のセッティングは完了しており、摘出した組織の培養条件も整っており、次年度の早い時期にハイスピードカメラでの繊毛運動の撮影、ビーズの流動画像を獲得する。その後の解析に時間を要することが予想されるが、画像解析に関する専門家に協力していただくことでデータの獲得を目指す。 最終年度である本年度では最終的に外部への発表を目指す。論文投稿を目指したいが、時間的にはデータをまとめ草稿の作成までが現実的である。外部発表としては夏に開催される日本神経科学会及び、年末に開催される分子生物学会でのポスター発表を計画しており、多くの研究者とのディスカッションにより論文発表へ繋げていきたい。
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